アニメーションの女王たち ナサリア・ホルト著 フィルムアート社

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アニメーションの女王たち

『アニメーションの女王たち』

著者
ナサリア・ホルト [著]/石原薫 [訳]
出版社
フィルムアート社
ジャンル
芸術・生活/演劇・映画
ISBN
9784845920020
発売日
2021/02/26
価格
2,860円(税込)

書籍情報:openBD

アニメーションの女王たち ナサリア・ホルト著 フィルムアート社

[レビュアー] 飯間浩明(国語辞典編纂者)

 アニメは無数の人々の協力で完成するもの。関わった人々の名が作品に刻まれるのは当然です。でも、昔のウォルト・ディズニー・スタジオでは、それが当然ではありませんでした。著者が描くのは、夢を作る仕事場で、女性たちが偏見や差別に苦しみ、闘ってきた軌跡です。

 1935年、女性初のストーリーアーティストとして入社したビアンカ・マジョーリーは、男性たちに罵(ののし)られつつ、ハラスメントの中で仕事をします。「ピノキオ」では人物造形に貢献しますが、彼女の名は作品にクレジットされませんでした。アニメ現場での女性活躍を報じる新聞記事も、彼女を匿名としました。

 ウォルト・ディズニーに賞賛されていたコンセプトアーティスト、メアリー・ブレアも例外ではありません。男性たちからは嫉妬され、新聞のレビューでは名前に触れられません。私生活でも夫にDVを受けていた彼女はついに退職に至りますが、後を引き継いだ男性は<彼女の倍の給料を受け取っていた>といいます。

 本書は400ページを超える本であり、語られるのは女性スタッフの苦難ばかりではありません。ディズニーアニメ自体が技術をどう革新してきたか、表現技法や人物描写をどう工夫してきたかにも筆が割かれます。そして、その変革には多く女性が関わっていたことも。

 21世紀、女性スタッフは個人として注目を集めるようになります。ブレンダ・チャップマンは「メリダとおそろしの森」で、ジェニファー・リーは「アナと雪の女王」で、それぞれ監督を務め、見事オスカーの栄誉に輝きます。

 昔のアニメならば、これで「めでたし」となりそうです。ところが、現状を見ると、ハリウッドのアニメーターのうち、女性は23%に止(とど)まるのだそうです。私たちの隣に、今も苦闘する多くのビアンカやメアリーがいます。ディズニーアニメの約80年を眺めるうち、自分たちの足下に気づかされます。石原薫訳。

読売新聞
2021年5月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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