『「平成」の天皇と現代史』
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「平成」の天皇と現代史 渡辺治著
[レビュアー] 古関彰一(獨協大名誉教授)
◆「有事法制」の時代に平和希求
平成の時代は「有事法制」の時代であったばかりか、国民意識はそれ以上に「疑惑」に「モリカケ」られた空疎な時代でもあった。
その「平成」を、著者は天皇制そのものに対する批判が極めて少なく、かつては厳しく警戒的であった「リベラル」も「穏健保守」も天皇擁護の論陣をはったと指摘する。
平成の天皇は、なにかと「平成流」と言われてきたが、著者はこう特徴づける。平成の天皇は、かつて国際親善を中心とした「象徴としての務め」を、九〇年代中葉以降は地方訪問、なかでも被災地や障害者施設などの弱者への訪問を増加させ、「憲法にとらわれず、天皇の意欲と行動によって、政治との緊張状態」を孕(はら)んだ行動に変化させたと。
また天皇は「戦争と平和」にこだわりを示した。しかし、その「戦争」とは、天皇にとっては戦前の戦争を意味し、戦後の、たとえばイラク戦争での日本の戦争「参加」は念頭にない点を指摘する。在位三十年式典での「おことば」では「平成の三十年間日本は、……近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちました」と述べている。平成は戦争を準備した有事法制の時代でもあったが。
憲法の視点から見れば、天皇は「内閣の助言と承認」により、六条、七条に列挙の国事行為のみを行うことになる。しかし先の「平成流」はこれに該当しない。ところが政府は、天皇の「象徴行為」に「内閣の助言と承認」は不要とし、国政に関与しない範囲で、「公的行為」を認めている。この「公的行為」によって、「平成流」は事実上無制限に肥大化することになったと著者は指摘する。さらには、皇位継承問題、保守政治・政権との関係など、国民の関心事である今日的問題にも筆は及ぶ。
「象徴」の根源が問われているが、本来「象徴」とは、抽象的な事象を具体的な形で示す際に用いる。英連邦の憲章が「クラウン(王冠)は、英連邦統合の象徴」としているごとく。日本国憲法では王冠ではなく天皇であるところに問題の根本がありそうだ。
(旬報社・2420円)
1947年生まれ。一橋大名誉教授。著書『戦後政治史の中の天皇制』など多数。
◆もう1冊
菅孝行著『天皇制と闘うとはどういうことか』(航思社)。樋口陽一との対談も。