『ジェフ・ベゾスの言葉』
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ジェフ・ベゾスのことば〜イノベーションには「失敗」や「迷走」が不可欠だ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
新型コロナウイルスの影響で「巣ごもり消費」が増大したこともあり、さらに勢いを増しているAmazon.com。時価総額は日本の国家予算を超える約1兆5900億ドル(2021年5月14日現在)という、驚くべき存在です。
そんな巨大企業をたったひとりで創業し、CEO(2021年の第3四半期に会長に就任する予定)として率いてきた人物がジェフ・ベゾス。約20兆円の莫大な資産を有する、世界一のお金持ちとしても有名です。
いったいなぜ、ベゾスはこれほどの成功を治められたのでしょうか。
その理由の1つが、①常に顧客中心に考える、②発明を続ける、③長期的な視点で考える、というアマゾンの「原動力となる3つの考え方」を守り続けたことです。
ベゾスは「将来」について、数字などを挙げて詳しく語ることを好みませんが、どんなビジネスを手がけるにしろ、この3つの考え方に基づいた企業であり続けたいと話しています。(「はじめに」より)
『ジェフ・ベゾスの言葉』(桑原晃弥 著、リベラル社)では、そんなアマゾンの「成功の原動力となる考え方」や、失敗こそがイノベーションをもたらすというベゾスの「失敗を恐れない生き方」などを紹介しているわけです。
先が見通せない時代、人はどうしても守りに入りがちですが、先が見通せないからこそ、試行錯誤を繰り返しながらも自分のアイデアを形にしていく「攻めの生き方」が必要です。
ベゾスのように「一歩を踏み出す」ことが重要なのです。(「はじめに」より)
そこできょうは第二章「失敗を恐れず、まずやってみよう」のなかから、失敗に関する2つのことばをピックアップ。そこに表現された意味について考えてみたいと思います。
イノベーションには失敗できる場所が必要だ
失敗は、当社が他社と一線を画している分野だと思います。
当社は、恐らく世界一失敗に適した場所です。
▶︎『ベゾス・レター』
(36ページより)
イノベーションを起こしたいと願う企業の経営者や管理職が、若手社員に対して「失敗を恐れず果敢に挑戦しろ」とメッセージを投げかけることがあります。
若手の挑戦を後押しする意思を示しているわけで、それ自体は素晴らしいことだといえます。
ところが、にもかかわらず、果敢に挑戦しようという若手は滅多に出てくるものではありません。それはなぜなのでしょうか?
挑戦には失敗がつきものです。だからこそ、大切なのは、失敗をしてしまった時に周りがどんな声をかけるかなのです。
上の人間が失敗の責任を「お前が勝手にやったことだ」と若手に押しつけたり、降格や異動といった厳しい処分を科したりすれば、誰だって挑戦などしたくなくなります。(37ページより)
若手の挑戦を本当に期待するのであれば、ジェフ・ベゾスがいうように「失敗に適した=いくらでも失敗できるような」職場であることが必要です。
なぜなら失敗とイノベーションは対の関係にあり、失敗なしにイノベーションだけを実現することは不可能だから。
失敗を称賛する必要こそないにせよ、少なくとも、失敗は「学びの機会」であるという考え方に基づいて、本心から挑戦を後押しする企業こそが真のイノベーションを手にすることができるということです。(36ページより)
特大の成果には「迷走」が欠かせない
天秤の片側に効率を載せたなら、
反対側には迷走が必要です。
▶︎『ベゾスレター』
(42ページより)
仕事をしていると、どうしても「効率」を追い求めたくなるもの。すべての仕事を効率よくこなせれば無駄もなくなり、より短い時間で成果を出すことができるのですから当然の話です。
ジェフ・ベゾスも無駄を嫌い、スピードをなにより重視する経営者。しかしその一方で、効率だけでは大きな成果を上げられないとも考えているのだそうです。
目指すものや行き先がはっきりとわかっている場合は、効率よく行動すればいいだけ。
ところが「お客さまのために」というような漠然とした目標しかないとしたら、混乱したり、脱線したりすることも考えられます。
したがって、そうなることを避ける人も多いかもしれません。しかしベゾスは、そんな迷走を経てこそ目指す場所にたどり着けるのだと考えているのです。
「天秤の片側に効率を載せたなら、反対側には迷走が必要です。それまでの流れから逸脱するような特大の発見をするには、迷走が求められることがきわめて多いのです」(43ページより)
どんな仕事であれ、目標に一直線にたどり着けることは少ないもの。ときに失敗したり、迷ったり、新しいことを試すなど、さまざまなことを繰り返しながら、自分なりの正解を探し出していくことが大切だという考え方。
たしかに効率はよくないかもしれませんが、そうやって得た学びはとても大きなものになるわけです。(42ページより)
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本書を読みながら「これは知っている」と感じたら、「じゃあ、やっているか?」と自分に問いかけてほしいと著者はいいます。
「これはよさそうだな」と感じたら、一度やってみてほしいとも。そうすることで、自身のポテンシャルをより高めることができるというわけです。
Source: リベラル社