書評家・村上貴史さんが激推しする 注目のミステリ作家の新作3冊

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[本の森 ホラー・ミステリ]『ブックキーパー 脳男』首藤瓜於/『二十面相 暁に死す』辻真先/『甘美なる誘拐』平居紀一

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 首藤瓜於は二〇〇〇年に『脳男』で江戸川乱歩賞を受賞してデビューした。それから二一年。著作数は多くはないが、存在感のある小説を放ち続けてきた著者の新作が『ブックキーパー 脳男』(講談社)だ。題名に明らかなように、デビュー作に連なる物語であり、〇七年の『指し手の顔 脳男II』以来となるシリーズ第三弾である。

 警視庁が異常犯罪データベースを整備する過程で、三件の殺人事件の共通項が発見された。それが示すところは愛宕市。中部地方では名古屋市に次ぐ大都市だ。そしてこの愛宕でも新たな殺人事件が発生。他の三件同様、拷問の痕がある。現地に赴いた警視庁の警視・鵜飼縣は、県警の茶屋警部とともに捜査を進める……。

 いくつもの悪意や欲望が絡み合う複雑な事件であり、登場人物も多い。しかしながらそれらは著者によって適切に整理されており、しかも物語の推進役である鵜飼も茶屋もべらぼうに突進力のあるキャラクターで、読者の手が止まることはない。新鮮な着眼点による調査で意外な事実に着地する妙味もあれば、アクションの冴えもある。六二〇頁を一気に読ませてくれる痛快作だ。ちなみに本書ではおなじみの面々、“脳男”や医師の鷲谷真梨子たちも活躍。三部作の完結編としても愉しめる。

『たかが殺人じゃないか』で昨年のミステリ界を席巻した大ベテランの辻真先。その最新作は、江戸川乱歩が生んだ怪人二十面相や明智小五郎、小林少年が活躍するパスティーシュ『二十面相 暁に死す』(光文社)である。『少年倶楽部』に掲載された「怪人二十面相」を昭和一二年に読んだ著者がそのキャラクターを活かして書いた作品であり、まさに乱歩直系の二十面相譚。『焼跡の二十面相』(一九年)に次ぐ第二弾である。今回の作品もまた贅沢な一冊だ。小林少年を視点人物に、彼の初恋を語りながら、トリッキィな犯罪とスリリングな活劇をいくつも織り込んでいるのだ。例えば序盤では、二十面相が東京と名古屋で一日のうちに犯行を行うという、当時の交通事情を考えるととても実現できそうにない“不可能犯罪”が描かれるし、複数の密室状況下の事件と、その合理的解明も読者に提示される。これぞ娯楽小説という一冊。

 第一九回『このミステリーがすごい!』大賞で『文庫グランプリ』を獲得したのが平居紀一『甘美なる誘拐』(宝島社)だ。この作品、誘拐ミステリとして実に出来が良い。誘拐ミステリの重要な勘所である、如何にさらうか/如何に身代金を奪うか、が巧みに処理されているのだ。誰がさらうか/何故さらうか、も素晴らしい。身代金を奪う際に新たな謎が生じる点も見事。誘拐事件が発生するのは作品の半ばなのだが、それまでの描写――チンピラ二人が殺人に巻き込まれたりする騒動を愉しく読ませる――も、後半であれもこれも伏線として活かされていて嬉しくなる。この新人の第二作が、たまらなく待ち遠しい。

新潮社 小説新潮
2021年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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