パフィーの大貫亜美、初エッセイ集『たぬきが見ていた』をトミヤマユキコが読む

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たぬきが見ていた

『たぬきが見ていた』

著者
大貫 亜美 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087711783
発売日
2021/05/10
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

パフィーの大貫亜美、初エッセイ集『たぬきが見ていた』をトミヤマユキコが読む

[レビュアー] トミヤマユキコ(ライター・大学講師)

アイドルとアーティストの間を突き進む唯一無二の存在

 本作は、パフィーの向かって右の方、亜美ちゃんこと大貫亜美さんのエッセイ本だ。一人娘の「小狸(こだぬき)」が大きくなり、意外にもまだ出場していなかった紅白歌合戦に結成20周年で呼ばれ、韓流アイドルにハマり、コロナ禍に突入する……約七年間の暮らしぶりがたっぷり。そのおかげで、ファン宛の私信に留まることなく、日本のカルチャーシーンを振り返る手がかりとしても機能している。
 中でもさくらももこさんが亡くなった時の文章が印象的だ。一般読者でさえショックだったのだから、面識があった人間にとっては筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。しかし、「今言葉にしておくべき」だと、さくらさんとの出逢いから別れまでが綴られていく。
 初対面の時は連絡先を聞くことすらできなかった亜美ちゃんが、念願叶って再会するや、アニメのエンディング曲を歌わないかとオファーされる。もちろん答えはイエスだ。「『よかった~! パフィーだったらポンポコリンみたいなバカな感じわかってくれると思ってたんだ~! 嬉しい~! 』と言って一緒にバカらしいものを作るという小2の夏休みの宿題みたいな約束をした」……大好きな人とバカがやれるなんて最高だ。しかし、だからこそ、別れが重くのしかかる。「そうなのだ。わたしもももちゃんも一児の母なのだ」「もちろん事実は受け止めるし、何なら親しい人の死は経験値が高いほうなので慣れっこなはずだった。でも無性に嫌だった」……お互いクリエイターであり母であるからこその思い。あの頃、たくさんメディアの報道が出たけれど、こんな風にさくらさんのことを書いた人はいなかったのではないか。
 この他にも、亜美ちゃんだからこその率直で地に足のついた言葉にいっぱい触れられる。ところで、パフィーを見るといまだに「亜美ちゃん&由美ちゃん」と呼んでしまう。アラフィフだろうが関係ない。アイドルとアーティストの間を突き進む唯一無二の存在だもの。リスペクトを込めて、永遠にちゃん付けで呼ばせてほしい。

トミヤマユキコ
とみやま・ゆきこ●ライター、マンガ研究者、大学講師

青春と読書
2021年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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