末期癌の患者が撮影した病院食に込められた思い

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末期癌の患者が撮影した病院食に込められた思い

[レビュアー] 都築響一(編集者)


『JIROX MEALS』JIRO IMAI[著]

 美味しくなさそうな食事が、美味しくなさそうな容器に盛られている。箸をつけたくないな~という気持ちのあらわれのように、ご飯におかずを載せて雪だるまみたいな顔をつくってみたり。バナナの皮を皿から伸ばして手足にしてみたり。たわいもない食べ物あそびの写真が、実は末期癌の患者が入院中の食事を病床で撮影したものと知った瞬間、胸が締めつけられる。

『JIROX MEALS』と題された小さな写真集の著者としてクレジットされている名前は今井次郎=JIROX。でも今井さんはもう9年前に亡くなっていて、夫人のかやさんと、自身の画廊などで活動を支えてきた御殿谷教子さんのふたりによって、作品集として世に出ることになった。

 最初の写真ページには2012年6月21日午前8時48分に食べ始めて、57分に食べ終えた朝食。最後は同年10月9日8時1分の朝食。およそ3ヶ月半の「ミール・アート」が、時系列に沿って淡々と並んでいる。カバーの薄いピンク色は、病院食のトレーの色だそう。写真はすべて今井さん愛用の古いタブレットで撮影したもので、高精度とはいえない画質だけど、そういうことはどうでもいい。病床に捕らわれ苦しい日々を過ごしながら、わずかな希望をあの、好きなひとなんてだれもいないだろう病院食に込めざるを得なかった気持ちが静かに伝わってくる。

 JIROX=今井次郎は1952年東京生まれ、2012年11月、悪性リンパ腫により逝去した。肩書きはいちおう「ミュージシャン、パフォーマー、造形作家」となっていたが、もちろんそんな言葉に収まりきらない振り幅でダイナミックな生を全うしたひとであった。

『JIROX MEALS』は自費出版物を扱う書店やウェブでも入手可能、公式サイトでご確認を。https://jirox-meals-jiro-imai.jimdosite.com/

新潮社 週刊新潮
2021年5月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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