ノリで伏線を張った、その先に――『境内ではお静かに 神盗みの事件帖』著者新刊エッセイ 天祢涼
エッセイ
『境内ではお静かに』
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ノリで伏線を張った、その先に
[レビュアー] 天祢涼(作家)
『境内ではお静かに 神盗みの事件帖』は、神社を舞台にしたラブコメ・ミステリ「境内」シリーズの三作目である。今回は、完全密室の神棚から御神体が盗まれる。「犯人はなぜ、どうやって御神体を盗んだのか?」がメインの謎になる。
御神体は、神社に祀(まつ)られた神聖不可侵のもの。一部の例外を除き、見ることすら許されない。「姿形がわからないものが盗まれるミステリーはおもしろいのでは」と前々から思っていた。三作目でこれを書くことに決め、二作目の中で「主人公たちが奉務する神社の御神体は今剣(いまのつるぎ)」と伏線も張っておいた。今剣とは、源義経(みなもとのよしつね)が自刃する際に用いたとされる守り刀。舞台となる神社は義経が主祭神なので、それらしくてよいと思った―が、これが苦労の始まりだった。
今剣の実在が疑われていることは知っていたが、いざ書く段になって、そもそも史料がほとんど残されてないことがわかった。ネットで検索しても、出てくるのは『刀剣乱舞(とうけんらんぶ)』のキャラクターばかり。なんの情報も得られない。
「なぜ御神体を今剣にした? 『それらしくてよい』なんてノリで伏線を張るな!」と、二作目を執筆している過去の自分に何度文句を言ったかわからない。
とはいえ、書き上げたものには「ミステリー度が高い」「スケールの大きな謎解き」などの評価をいただくことができた。下手(へた)に自由に書くより、「今剣を出さなければならない」という制約が課せられたせいで、いろいろ悩みながら書いたことが却(かえ)ってよかったのかもしれない。
このシリーズは、構想自体は六作目まであるが、四作目となる次作で一区切りをつけたいと思っている。五作目以降は、アニメ化やドラマ化されたときすぐ書けるように準備しておこう……と、取らぬ狸(たぬき)のなんとやらなことを頭の片隅に置きつつ、ひとまずの最終作『境内ではお静かに 神降ろしの事件帖(仮)』を最高の形で世に出すべくがんばりたい。