『レオノーラの卵』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
旅の終わりのナンマイダ 日高トモキチ
[レビュアー] 日高トモキチ(作家)
はじめて見る景色なのに、なんだか旧知のような気がする。ファンタジィのようでもあるが、それにしてはやや通俗的であろう。いつもの道の角を曲がった先に急にあらわれる見覚えのない街。当たり前のように繰り返される非日常のルーチン。
ずいぶん昔、フリーになって何年かした頃、学生時代の友人たちと集まった。誰かの結婚式だったろうか。昔のノリでとりとめなく馬鹿話をしていて、ふと
「日高はええな、そんなん考えてて仕事になるんやから」
と真顔で言われたことがある。
「え」
そうなんだ。他の人はもうそんなん考えてないのか。
真っ当に育ったオトナとの温度差、距離感を突きつけられたような、そんな気がした。まあ、ご指摘自体はおっしゃる通りなので仕方がない。そんなような仕事です。
あれから何十年か経(た)ったけれど、自分がちゃんと成長した気はしない。相変わらずおおむね四六時中ろくでもないことを考えて過ごしている。
ただ、ものごとにはいつか終わりが来るという実感だけは、あの頃よりはるかに強くなった。
だったら世界が終わるその日まで、とりとめのない馬鹿話を続けていよう。この世の終わりにおびえるのを止(や)めた、あの賢明なフィリフヨンカに倣って。
これらの物語はだから、わりかし適当な日常がぼんやりと、時折はにぎやかに、あっちにぶつかったりこっちにぶつかったりしながら、ゆるやかな坂道を、少しずつ加速度を増して、ひたすらしずかな終焉(しゅうえん)に向けて転がってゆくような、そんな世界の欠片(かけら)です。
終末までのしばしの間、いささか饒舌(じょうぜつ)なひまつぶしにお付き合い頂ければ。