『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋昌一郎著

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フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔

『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』

著者
高橋 昌一郎 [著]
出版社
講談社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784065224403
発売日
2021/02/17
価格
1,034円(税込)

書籍情報:openBD

『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』高橋昌一郎著

[レビュアー] 長辻象平(産経新聞論説委員)

 ■20世紀の科学を創った男

 人間の知性には受容型と創造型の2タイプがある。

 世界の歴史上にはごくまれに受容型としても創造型としても超々一級の知力を具備した怪物的な頭脳の持ち主が現れる。

 20世紀における代表格がハンガリー生まれの数理科学者で、ナチスの欧州蹂躙(じゅうりん)を予感して米国に移住したフォン・ノイマン(1903~57年)だ。

 いかに多くの科学的なブレークスルーが、この人物の頭脳から生まれたことか。純粋数学を手始めに物理学、気象学、生物学や経済学で、各分野の天才的な研究者を圧倒する足跡を残している。

 意思決定の科学であるゲーム理論も現代のコンピューターの基礎もノイマンの思考と実践の産物なのだ。彼が誕生していなければ現代史は別の道を緩慢に進んでいたことだろう。

 論理学と科学哲学を専門とする著者がノイマンの53年間の生涯をたどりつつ、その思想や道徳規範といった哲学の領域までを照射したのが本書である。

 ブダペスト銀行の顧問弁護士の父と大富豪の娘だった母との間に生まれたジョン・フォン・ノイマンは6歳の頃から突出した記憶力と計算能力を発揮した。14歳のときには、ブダペスト大学の数学者たちと互角の能力を身につけていたという。

 アインシュタインが在籍した米国のプリンストン高等研究所の5人の教授の1人に迎えられたのは29歳のときだった。

 超人的な思考力の深さと高速性の故に、ノーベル賞受賞者からも「彼は人間よりも進化した生物ではないか」と本気で畏怖されていたほどだ。

 本書にはノイマンの変わった思考スタイルも紹介されている。彼は雑音の中でしか考えを進められず、好みのジャズの響きは真向かいのアインシュタインの研究室にも届いていた。

 温厚で人当たりのよいノイマンだが、原爆製造を進めたマンハッタン計画の主導的研究者でもあった。彼の思想は科学優先主義であり、非人道主義とさえ呼べるものだったのだ。

 第二次大戦をはさんだ欧州と米国の社会情勢を背景に、ノイマンを再配置したことで希代の天才の陰影が際立つ小伝となっている。幼児期教育のヒントも読み取れることだろう。(講談社現代新書・1034円)

 評・長辻象平(論説委員)

産経新聞
2021年5月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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