パンデミックは資本主義をどう変えるか ロベール・ボワイエ著

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パンデミックは資本主義をどう変えるか

『パンデミックは資本主義をどう変えるか』

著者
ロベール・ボワイエ [著]/山田 鋭夫 [訳]/平野 泰朗 [訳]
出版社
藤原書店
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784865783025
発売日
2021/02/25
価格
3,300円(税込)

書籍情報:openBD

パンデミックは資本主義をどう変えるか ロベール・ボワイエ著

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 発生からすでに1年以上が経過した現時点でも、コロナ危機からの出口は一向に見えない。現在生じている事態の本質は何か。危機の最中に、資本主義経済はどのような質的変化を遂げつつあるのか。「レギュラシオン理論」の泰斗が正面からこれらの問題に取り組む。

 レギュラシオン理論の特徴は、各時代や地域の資本主義体制を、その発展様式と構造的危機に即して動的に見ることにある。経済だけでなく、それが政治や社会と歴史的・制度的文脈の中で相互作用することが重視される。コロナ危機が既存のシステムを揺さぶる現状を分析するには、最適な分析枠組みなのだ。

 著者はコロナ危機の現状を「健康・経済・自由のトリレンマ」と特徴づける。公衆衛生、経済、自由への配慮をすべて同時に充足することは不可能だ。コロナ危機が生み出す複雑な利害関係(たとえばオリンピックの賛否がいい例だ)と根源的不確実性を背景に、政府の政策はこのトリレンマの中で右往左往する。

 コロナ危機は近年の傾向を加速し明確にしているとも言える。たとえば米IT大手5社のGAFAMに代表される「プラットフォーム資本主義」と、グローバル化に反発し自国優先に走る「国家資本主義」の台頭である。こうしたタイプの違いが危機対応の多様性を生み出し、異なるパフォーマンスを生じさせている。

 だが著者はコロナ危機の中にもう一つの可能性を読み込もうとする。今回の危機は、これまでコスト要因と見なされがちだった医療・保健体制の重要性を際立たせ、われわれの優先順位を逆転させた。ここから発想されるのが、人間を中心とし、教育・医療・文化への支出を重視する「人間形成型」の発展様式である。もちろん著者は、その発展に対して楽観的でない。将来は、今後の政治的連合の形成如何(いかん)だからだ。

 現在生じている事態の本質を、少し離れて見通す語彙(ごい)とパースペクティブを提供してくれるとともに、将来への想像力をかき立てる貴重な本である。山田鋭夫、平野泰朗訳。

 ◇Robert Boyer=1943年生まれ。パリにある米州研究所エコノミスト。著書に『レギュラシオン理論』など。

読売新聞
2021年5月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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