高瀬庄左衛門御留書 砂原浩太朗著

レビュー

6
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高瀬庄左衛門御留書

『高瀬庄左衛門御留書』

著者
砂原 浩太朗 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065192733
発売日
2021/01/20
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

高瀬庄左衛門御留書 砂原浩太朗著

[レビュアー] 木内昇(作家)

 小説は必ずしも「正しい言葉遣い」を遵守(じゅんしゅ)すべきものではない。だが一方で、その時代、その身分の言葉や所作を誠実に映した表現が、小説世界に温かな血を通わせるのもまた事実だ。

 神山藩にて郡方を担う高瀬庄左衛門は、妻に続いて跡継ぎを不慮の事故で亡くした。初老となって味わう独居の侘(わび)しさを、彼は絵筆をとることで慰めている。一度は実家(さと)に戻った長男の妻・志穂は、そんな舅(しゅうと)を慕って絵を習いに通ってくる。静謐(せいひつ)な日々のはずだった。が、彼は図らずも藩の政争に巻き込まれていく。

 家を支え、務めを全うすること。朋友(ほうゆう)との繋(つな)がり、若き日のはかない恋慕、老いてからの包むような情愛、そして家族への想(おも)い。ゆるがせにできない事柄が幾重にも層をなし、物語は編まれていく。時代ものの様式美を踏襲しつつも本作が特別なのは、あえてみなまで書かぬ抑制の利いた筆ゆえだろう。目に映る景色、相手の面差し、暮らしの事々。それらを丁寧に描写することで、おのおのの心根が痛いほど伝わってくる。

 染み入るような文章はもとより、装幀(そうてい)もまた麗しい。けだし眼福でござった。(講談社、1870円)

読売新聞
2021年5月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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