3冊そろえてまとめて読むべし ラストの名場面は必見

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  • 歓喜の歌 博物館惑星3
  • 不見【みず】の月 博物館惑星2
  • 永遠の森 : 博物館惑星

書籍情報:openBD

3冊そろえてまとめて読むべし ラストの名場面は必見

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 菅浩江『歓喜の歌 博物館惑星III』は、今年2月に発表された第41回日本SF大賞の受賞作。昨年8月に単行本が出たばかりだが、受賞を機に(『不見の月 博物館惑星II』と同時に)早くも文庫化された。

 改めてこのシリーズをふりかえると、第一作の『永遠の森 博物館惑星』(2000年)は、「ベストSF2000」国内篇1位と第54回日本推理作家協会賞を射止め、名実ともに著者の代表作になった連作短編集。

 物語の舞台は、宇宙空間(地球―月系の重力均衡点のひとつL3)に浮かぶ博物館小惑星アフロディーテ。既知宇宙のあらゆる芸術作品や生物を網羅するこの博物館は、音楽・舞台・文芸と、絵画・工芸、それに動・植物の三部門で構成されている。主人公の田代孝弘は、部署間の軋轢を調整する総合管轄部署〈アポロン〉に所属する総合科学者。各編それぞれに趣向が凝らされているが、通しテーマは“美とは何か”。SF的な感動と情緒的な感動が絶妙のハーモニーを奏でる。

『不見の月』(2019年)は、前作から19年ぶりに出たシリーズ第2作。今回の主人公は、アフロディーテに赴任したばかりの新人スタッフ・兵藤健。国際警察機構が管轄する組織の所属なので、芸術をテーマにした異色の警察官小説のようにも読める。こちらの最終話となる表題作は、昨年の星雲賞日本短編部門受賞作。故人が残した謎を焦点に、細やかな感情の機微が描かれる。

『歓喜の歌』はその直接の続編―というか、実はIIとIIIでひとつの話なので、2冊(または3冊)まとめて読むのがおすすめ。

 逃げ出した遺伝子操作タマムシ、完璧にそっくりな焼き物、笑顔を撮影した一枚の銀塩写真、盗まれた抽象画……一話完結式に描かれる事件に、情動学習型データベース〈ダイク〉の成長や、はぐれAIの暗躍(?)がからみ、やがてベートーベンの「歓喜の歌」が高らかに鳴り響く最終章へと雪崩れ込む。

「これほどまでに美しい、SFの大団円があったでしょうか」と帯で編集者が問うラストの名場面は必見。

新潮社 週刊新潮
2021年6月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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