「ツレ」のつらさや絶望感が伝わってくる

レビュー

2
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ツレがうつになりまして。

『ツレがうつになりまして。』

著者
細川 貂々 [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784344413023
発売日
2009/04/27
価格
605円(税込)

書籍情報:openBD

「ツレ」のつらさや絶望感が伝わってくる

[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「鬱」です

 ***

 鬱の現実を世に知らしめるうえで、細川貂々『ツレがうつになりまして。』はとても大きな役割を果たした一冊だ。愛嬌のあるマンガ表現の利点を活かしながら、鬱病になった者のつらさや、自殺念慮に至る絶望感が、よくわかるように描かれていく。

 大きなストレス源になっていた会社勤務をやめて、治療に専念するようになっても一進一退、「カメフトン」状態で「しくしくしく」とすすり泣く日々からの脱却は容易ではない。

「ツレ」こと夫が鬱に追い込まれたのには「真面目すぎてダラダラすることができない」性格が影響していた。とすればこれは間違いなく、日本人の多くがあてはまるのではないか。

 台風や冬至の時期に落ち込みがひどいというのは、季節のサイクルと合致している。鬱の人間をとおして、大きな自然の力が表れ出ているようにも感じられる。

 細川は「ツレ」の病状に驚き悩みながら、ねばり強く寄り添う。ときには彼の苦手な「渡る世間は鬼ばかり」のテーマ曲をわざと大きい音でかけたりもする。しかしこの状況を二人で何とかしのごうという気持ちは決して揺るがない。

 細川のマンガに挟まれる「ツレ」の文章が、いかにも誠実な人柄があふれ好感度大だ。病をとおし二人は理想の夫婦となった。そして何よりも重要なのは、とにかく仕事を放りだしてひたすら休むことなのだ。この本は慌ただしい日常からしばし降りることの意義を教えてくれるのである。

新潮社 週刊新潮
2021年6月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加