『プロフェッショナルリーダーの教科書』
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部下のやる気を刺激して成功へと導く「エンゲージ」の引き出し方
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『プロフェッショナルリーダーの教科書』(箱田賢亮 著、あさ出版)の著者は、コロンビア大学博士(教育学)、指揮者。
16歳のときに留学したアメリカの高校で英語と音楽を学び、卒業後はアメリカ中西部の名門リベラルアーツ大学へ進学して音楽の教員免許を取得。その後はアメリカの公立高校の音楽教師や大学の教授として22年間働き、オーケストラの指導者にもなったのだそうです。
そんな経歴を確認すると華やかにも思えますが、最初はいくら懸命に教えても、学生の音楽の技術は高まらなかったのだとか。
そこで「自分の教え方が間違っているのかもしれない」と思い、教員を続けながらコロンビア大学に進学することにしたのだそうです。
コロンビア大学では、教授(教える側)ではなく、学生(学ぶ側)の視点を持った最先端の教育がなされていました。
これを“Student-Centered”(スチューデントセンタード:学生中心)と言います。
私はコロンビア大学に入学して、すぐに「教え方を考えていたこと自体が間違いであった」と気づきました。(「はじめに」より)
そこでスチューデントセンタードを高校の授業に取り入れたところ、学生たちの音楽の技術がめきめきと成長していったのだと振り返っています。
また、スチューデントセンタードの考えを部下に応用することで、指導が劇的によくなり、部下の成長にもつながったのだといいます。
そこで本書では、そうした経験をもとに、「プロフェッショナルリーダーとはどういう存在か」「プロフェッショナルリーダーになるためにはどうすればいいのか」についての考え方を明かしているわけです。
きょうは、とくに重要なキーワードである“Engagement”について解説したChapter 1「“Engagement” (エンゲージメント)とは?」に注目してみたいと思います。
「エンゲージする」の語源は「婚約」!?
アメリカでよく使われることばのひとつとして、著者は“Engage” (エンゲージ)を挙げています。
働いていた大学でも“You must engage students.” (学生をエンゲージしろ)と学長や上司にいわれてきたといいますが、「エンゲージする」とはどういう意味なのでしょうか?
「エンゲージする」の語源は“Engagement”からきており、これは「婚約」という意味で使われることが多いもの。
たとえば婚約指輪は“Engagement Ring”ですし、動詞として使うと“I was engaged to Sam.”(私はサムと婚約した)というふうに使われます。
しかしそれ以外にも、さまざまな状況で“Engagement”が使われているのだといいます。
なお辞書で調べると、次のような意味が載っているそうです。
1. Occupy or attract (someone’s interest or attention)
(興味や注意)を占める、引きつける
2. Participate or become involved in
参加や関わり
(60〜61ページより)
1.で使われている“occupy”や“attract”は、「気持ちや感情を引きつける」という意味。
2.で使われている“participate”は、「参加する」ということ。
つまり“Engage”には、人の感情や心を引きつけ、自ら積極的に関わるという意味が含まれているわけです。(60ページより)
アメリカで頻繁に使われる“Engage”
そのように「婚約」以外にもさまざまな意味を含むエンゲージですが、アメリカの学校では次の表現がよく使われるのだといいます。
Get them engaged! 心身ともに参加させよう!(意訳)
(62ページより)
他に“Let’s get them to participate together!”や“Have them involved!”などの表現があるにもかかわらず、あえて“Engage”を使っているのは、学生をただ行動(勉強)させるのではなく、しっかりと学び、自発的に行動させようという意味が含まれているから。
つまりエンゲージメントには、ただ一緒に行動する(“Do”)という意味以上に、精神的な調和や積極的な行動という意味合いがあるわけです。したがってエンゲージメントを掘り下げると、次の意味にたどり着くそうです。
共感して、自主的に行動する (63ページより)
会社や学校などの組織において、個々人は組織の一部となって一緒に仕事や勉強に取り組むことになります。
そんななか、リーダーが部下のエンゲージメントを引き出すリーダーシップ(エンゲージメントリーダーシップ)を発揮すれば、各人がエンゲージし、組織にとって重要で不可欠な存在になる。それが重要だということです。(62ページより)
部下をインスパイアする
リーダーは部下に対して、「あいつはやる気がない」と感じることがあるのではないでしょうか。
しかし人は誰しも、「成功したい」「結果を出したい」「ほめられたい」と思っているもの。つまり、心のなかに「やる気を持っている」わけです。
なのに方法がわからなかったり、「私には不可能だ」と思ってしまうケースが多いにすぎないということ。
そこで重要な意味を持つのが、“inspire”(インスパイア)だと著者はいいます。
“inspire”の語源(基本的な意味)は、“SPIR”(スピア:息をする)であり、“in”(中に)がついているので「(中に)息が吹き込まれる」という語源から、「鼓舞する」「奮い立たせる」という意味になります。
他にも、“Spirit”(スピリット:魂)の語源が“SPIR”です。
リーダーが部下の魂に息を吹き込む、つまり「部下の魂を刺激する」ことで、個々の中にある「やる気」を引き出してあげることができるのです。(64〜65ページより)
魂を刺激される方法にもいろいろありますが、上司(リーダー)と部下という上下関係において、リーダーが部下のエンゲージメントを引き出すためにできる方法は「成功を体験させてあげること」。
人は成功させることによって、それぞれの行動や考え、仕事についてエンゲージするもの。その成功が感動や快感となり、魂を刺激するわけです。
いわば、部下の成功を促してあげることは、エンゲージへの最大の近道であるわけです。(64ページより)
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エンゲージメントについてのこうした考え方を軸として、以後も著者の実体験に基づいたリーダーのあり方が紹介されています。部下の動かし方で悩んでいる方は、参考にしてみてはいかがでしょうか?
Source: あさ出版