移り棲む美術 三浦篤著 名古屋大学出版会

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移り棲む美術

『移り棲む美術』

著者
三浦 篤 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ジャンル
芸術・生活/絵画・彫刻
ISBN
9784815810160
発売日
2021/03/10
価格
6,380円(税込)

書籍情報:openBD

移り棲む美術 三浦篤著 名古屋大学出版会

[レビュアー] 中島隆博(哲学者・東京大教授)

 象徴的な書名である。日本の美術がジャポニスム(日本趣味)として十九世紀後半から二十世紀初頭のヨーロッパ特にフランスに影響を与え、その影響を与えられたフランスの美術から、今度は日本の美術が影響を与えられる。このダイナミックな相互の往還と変容を、著者は植物が異国の地に移植され交雑し開花するかのごとく、「移り棲(す)む」と切り取って見せたのである。

 本書の特徴はその目配りの規模の大きさにある。たとえば、ジャポニスムの要素が、浮世絵のような絵画作品だけでなく、陶磁器などの工芸品、建築や文学からファッションにまでその範囲を拡大された。またジャポニスムの影響においても、印象派やポスト印象派に集中していた関心を広げ、パリのサロン(官展)に出品された絵画を取り上げて、当時のフランスの制度の中にある美術にまで浸透するジャポニスムを明らかにすることに成功している。

 その代表的な人物として取り上げたのがラファエル・コランである。フランスのアカデミズム系の有力画家であると同時に、日本の美術品の蒐集(しゅうしゅう)家でもあり、趣味の園芸では日本から牡丹(ぼたん)や百合(ゆり)を取り寄せていた。そのコランを著者は「フランス絵画の春信」と呼び、江戸時代中期の浮世絵師、鈴木春信との間に共鳴する美的理想、すなわち青春の美や繊細な情趣、気品ある装飾性や微妙な色合いへの志向を認めている。「共鳴のジャポニスム」と命名するゆえんである。

 そうしたコランであったからこそ、黒田清輝をはじめ、明治期にフランスに留学した日本人の弟子を多く受け入れ、日本人の画家たちもまたコランに近代西洋美術への格好の入口を認めたのではないか。そのため、日本人画家たちが作り上げていった日本近代洋画は、外光のもとで牧歌的な裸体像を描くコランの画風の影響を強く受けている。しかし、それは「ジャポニスムの環流」とも言いうるものなのだ。

 移り棲むジャポニスム。読み応えのある力作である。

読売新聞
2021年5月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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