塀の中の残念なおとな図鑑 美達大和(みたつ・やまと)著
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
◆人生の転落 獄中聞き書き
刑務所界隈(かいわい)の業界用語だという「チョーエキ」は漢字で書けば懲役、受刑者のことだ。本書は凶悪犯が収監される某LB級刑務所に服役する人々の観察記録である。
著者自身、二件の計画殺人を行い無期懲役で服役中だが、自分の罪を自覚して社会に出ることを拒否し仮釈放の対象外、つまり終身刑だ。だが社会に役立ちたいという思いを強く持ち十作以上の著作のある獄中作家である。
本書は「チョーエキ」とはどんな人か真実の姿を伝えることを目的としている。安部譲二『塀の中の懲りない面々』を思い出す人も多いだろうが、あれから三十年以上経(た)ち、塀の中の環境も人々も様変わりしているようなのだ。
独居房で暮らす著者が出会うのは、なんらかの懲罰で取り調べ中の人や、移送の直後や他への移送待ちの人。短い間だが、週数回の外運動で遭遇した折、同じチョーエキとして罪状や心境を聞き取り調査したものだ。
初めての“務め”をする二十代前半の町中さん(仮名)は元営業マンという爽やかで朴訥(ぼくとつ)な青年だ。格闘技を嗜(たしな)んでいた高校時代のヤンキー経験が、単純な喧嘩(けんか)と仲間の報復を行った事件の裁判で不利になったという。著者は「いかに仮釈放を早くもらうか」という知恵を授ける。親や雇用主からの手紙や被害者への弁償など、アドバイスは非常に具体的だ。
同じように爽やかな外見でもオレオレ詐欺の主犯格の本田さんは「高齢者の資産をもらって何が悪いのか」という考え方を直そうとはしない。己の犯罪を反省するという「因子」を持っていない者は再犯を繰り返し、生涯犯罪者の人生を続けるだけだと断言する。殺人罪で五十代の無期囚金沢さんは超模範囚。我慢に我慢を重ねて仮釈放を達成した。だが真の反省までの道のりは過酷なものだった。
今や「刑務所は最後の福祉施設」と言われるほど多くの問題を抱えたチョーエキが収監されている。普通の人が「残念なおとな」となる理由は様々だ。人間の心の奥底を覗(のぞ)いたような気持ちになった。
(主婦の友社・1650円)
1959年生まれ。無期懲役囚。刑期10年以上の受刑者を収容するLB級刑務所に服役中。
◆もう1冊
管賀江留郎著『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』(ハヤカワ文庫NF)