『「向いてる仕事」を見つけよう』
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「向いてる仕事」を見つけるには、まず世の中に貢献できるかどうかを考える
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
自分に向いた仕事を見つけようとするとき、壁にぶつかることも少なくないはず。
「なにが自分に向いているのか、どんな仕事をするべきか」という問題に関する、明確な答えはないに等しいからです。
この問題について、「現代人は、人生の大半を捧げる仕事というものに対して、まったく新しい見方が必要だ」と主張しているのは、『「向いてる仕事」を見つけよう』(トム・ラス 著、児島 修 訳、ダイヤモンド社)の著者。
「仕事とはなにか」について考える際、それを「自分がしていること」ではなく、「どのように誰かの役に立っているか」で定義すべきだというのです。
この発想の中心にあるのは、「自分の能力をどのように活かせば、生涯にわたって世の中に価値のある貢献ができるか」を考えること。
私たちにとって、持って生まれた才能は、よりよい人生を歩むための最善の道具になる。 だが、その才能が最大の価値を生み出すのは、自分のためだけではなく、外の世界に向けて使われたときだ。
「なりたい誰かになること」も、「もっと自分らしくあること」も、他者が求めていることにつながらない限り、社会的に価値を与えられない。
つまり、あなたの強みや努力は、世の中に具体的に貢献できてこそ、はじめて大きな価値に結びつく。(21〜22ページより)
こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうは第I部「『向いてる仕事』とは何か」内の第4章「『最高の職場』を手に入れる方法」に注目してみたいと思います。
「誰かの役に立っている」と実感できる人は、仕事の満足度が高い
初めから完璧な仕事に運よく巡り合えるような人は、めったにいないもの。
心から愛することができ、自分の能力を最大限に発揮できる仕事は、通常は数十年もの時間をかけ、紆余曲折と学びを重ねながら見つけていくものだからです。
なによりも大切なのは、いま目の前にある仕事を通じ、少しずつ自分を成長させながら前に進んでいくこと。決して、宝くじを引くような気持ちで夢の仕事を探すことではないのです。
つまり、有意義な仕事を得るために、現在の仕事をいますぐやめる必要はないのです。なぜなら、価値ある仕事は自らの手で育んでいけるものだから。
周囲からは順風満帆に見えるようなキャリアでも、実際は曲がりくねった道を辿っているもの。すなわちキャリアとは、階段をまっすぐに上っていくようなものではないわけです。
したがって、自分の仕事の道のりを、起伏とカーブの多いマラソンコースのようなものだととらえてみれば、日々の一歩一歩の積み重ねがいかに大切かに気づくはず。
まずは、今の仕事が誰かの役に立っているのをはっきりさせるところからはじめてみよう。
自分がしていることと、それによって恩恵を受けている人を結びつけるのだ。
日々働くことが誰かの人生をよりよいものにしていると実感できると、仕事の成果が上がり、楽しさや満足感も高まる。(54ページより)
著者によれば、そのことを示す研究結果は数え切れないほどあるのだとか。
たとえば外食産業では、厨房で働く料理人の姿が客席から見える場合、客の満足度はそうでない場合にくらべて10%向上するといいます。
また、料理人と客がお互いの姿を見ることができれば、客の食事に対する満足度は17%上昇し、注文されてから料理人が料理を客に届けるまでの時間も13%短くなるのだそうです。
自分が客だった場合のことを考えると、充分に納得できる話ではないでしょうか。(53ページより)
自分の仕事から恩恵を受ける人を具体的に思い浮かべる
著者は毎週のように、キャリアに不満や迷いがある人の話を聞くそうです。
多くの場合、「仕事でもっと充実感を味わうにはどうすればよいでしょうか」と相談されるものの、決まって相手は転職することを前提にしており、すでに複数の企業に履歴書を送っているのだといいます。
この例からもわかるように、「よい仕事を得るには転職しかない」という考えで頭をいっぱいにしてしまうと、いまの仕事で最大限の貢献をする方法を見つける意欲を持ちにくくなるのです。
しかし、私たちは「いまの仕事を充実した一生の仕事にするためにはどうすればいいのか」という重要な問いを、できるだけ早くから自分するべき。著者はそのように主張しています。
まずは、とても基本的な質問から始めよう。
「自分の仕事によって恩恵を受けている、あるいはこれから受けるのは誰か?」(66〜67ページより)
漠然とした集団ではなく、具体的な個人名を挙げられるでしょうか?
日々の仕事から恩恵を受けている人の姿を目にしている場合であっても、その価値に気づき、背後にある大きな意義を自覚するのは容易なことではありません。
事実、著者も何人もの教師から、「ひとりの生徒の成長に影響を与えていることに気づくまで、日々の仕事に追われ、生徒全員の成長に貢献しているという仕事本来の意義を見出せなかった」という話を聞いたことがあるそうです。
さまざまな職業の人に共通しているのは、誰かの役に立っていることを直接体感すれば、自分の仕事がどんなふうに人々に貢献しているかをはっきりと理解できるようになるということだ。(67ページより)
自分の仕事が誰かのためになっているのを目の当たりにするほど、「もっと役に立ちたい」というモチベーションが上がるもの。
さらに、その人について多くを知るほど、自分の才能を新しい方法で活用しようという意欲も高まるということです。(66ページより)
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「他者に貢献する」という観点から仕事について考えることは、著者のいうとおりとても理に叶っていると感じます。
だからこそ、本書は説得力に満ちているのです。また、仕事に対する価値観を見つめなおすためにも、大きく役立ってくれそうな一冊だといえるでしょう。
Source: ダイヤモンド社