役に立つか立たないかは誰が決めるのか

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「役に立たない」研究の未来

『「役に立たない」研究の未来』

著者
初田哲男 [著]/大隅良典 [著]/隠岐さや香 [著]/柴藤亮介 [著]
出版社
柏書房
ISBN
9784760153480
発売日
2021/04/14
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

役に立つか立たないかは誰が決めるのか

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 自分の研究を「何の役に立つか」と質問されたら科学者は明確に答えられるだろうか。「おもしろいから研究しているのだ」と堂々と言える人は少ないだろう。日常生活で研究者を直接知る機会は少なく、研究は象牙の塔の中だけで行われていると思われている。

 それではいけないと本書の編者・柴藤亮介は考えた。彼は学術系クラウドファンディングサイトを立ち上げ、個人が研究費を支援できるサービスを構築したが注目されるために「役に立つ」と主張する研究になりがち。だが「役に立つ/立たない」は誰が決めるのか。「役に立たない」研究の意義は何か。

 この問題を解くため2020年8月、理化学研究所の初田哲男、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典、名古屋大学大学院経済学研究科教授で科学史を専門とする隠岐さや香のオンライン座談会が開かれた。

 第一部はそれぞれの講演会、第二部は三人のトークセッションに視聴者からの質問を交えた活発な意見交換が行われ、研究者側の問題だけでなく日本の学術研究のあり方を考えさせる機会となった。

 科学の発展は循環的で波及効果が大きく、長期的視点が必要で多様性が本質的である、と初田は言う。

 大隅は「科学技術」という言葉によって基礎科学は技術のためにある、と思われている誤解を解かなければならないと力説する。

 また隠岐は、現代は「未来がよくなる」という気持ちが持てず「繁栄の約束」が消滅した時代で、人々は余裕を失っている、と語る。

 研究とは「おもしろい」ことを突き詰めたいという思いが強ければ継続できる、と繰り返される。mRNAを使った新型コロナワクチンはハンガリー出身の科学者の40年にわたる地道な研究の成果だ。彼女はどんな思いで続けていたのだろう。科学者に憧れる子どもに、研究はおもしろいと胸を張って伝えたい。

新潮社 週刊新潮
2021年6月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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