“独立系書店”店主が向き合った自らの“読書観”

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ぼくにはこれしかなかった。

『ぼくにはこれしかなかった。』

著者
早坂大輔 [著]
出版社
木楽舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784863241510
発売日
2021/03/26
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

“独立系書店”店主が向き合った自らの“読書観”

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 独立系書店というジャンルがある。街の書店が潰れていく中、なんでも揃う大型書店でさえ経営が難しいのに個人で小さい書店を開く人が増えているのだ。私自身、芸能界を引退後に書店経営を始めたクチなのでここに属しており、開店したてでなかなか本が入荷しなかった時期には早川義夫の『ぼくは本屋のおやじさん』を首がもげるほど頷きながら読んでいた側の人間なのである。そんな経緯もあり、よく「今の仕事を辞めて本屋さんになりたいんです」と相談を受ける。本は正直、利益が少ない。安定している仕事を捨てて本屋になってもいいんじゃない?なんて無責任にはいえない。だが……本好きにとって書店は本当に魅力的な仕事に見えるのだ。そんな人に良いことも悪いことも含めてどう伝えたらいいものかと考えていたのだが、そんな時スッと差し出したい本が出版された。

 盛岡にある「BOOKNERD」の店主、早坂さんは元サラリーマンである。彼がなぜ、どうやって書店経営者になったかが記されているのだが、いわゆるハウツー本ではない。ありのままを正直に、失敗や挫折すら打ち明けてくれる。「なぜ街に本屋が必要なのだろう」という早坂さんの自問自答を読みながら、自分の“書店観”を見つめる。私の信念やモチベーションは彼とはかなり違う。そう、それぞれが“違う”ことが独立系書店の強みなのだ。「ないものを作れる人」が向いている。そして、「自分にしかできない仕事」を見つけていくのだ。そんな独立系書店が増えていくと良い。

 途中、この本で読んだ一文に震えた。なんでもかんでもネットで情報も物語も手に入れられる時代。なぜ本を読むのか?という問いにこんなにしっくりくる答えはない。読書とは、「インターネットではけっしてつかむことのできないひとつの知性なのだ」。巻末についている、彼を構成する50冊のブックリストも必読!

新潮社 週刊新潮
2021年6月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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