BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 ジョン・キャリールー著 集英社

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BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相

『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』

著者
ジョン・キャリールー [著]/関 美和 [訳]/櫻井 祐子 [訳]
出版社
集英社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784087861266
発売日
2021/02/26
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 ジョン・キャリールー著 集英社

[レビュアー] 仲野徹(生命科学者・大阪大教授)

 「お金儲(もう)けがしたいの」と19歳でスタンフォード大学を中退したエリザベス・ホームズは、バイオ機器ベンチャー・セラノス社を2003年に設立し、1年あまりで600万ドル近くもの資金を調達する。わずか数滴の血液からリアルタイムで多種類の検査をおこなえる機器を開発するのがゴールだ。確かに画期的だ。もちろん、もし本当にできたならば、ではあるが。

 アップルの創業者スティーブ・ジョブズを神のように崇(あが)めるホームズには、ジョブズと同じように「現実歪曲(わいきょく)空間」を作り出す能力があった。つくり声ではないかと疑われる低い声で囁(ささや)かれた大企業やベンチャーキャピタルが次々と投資する。2014年には、セラノス社の評価額が90億ドル、ホームズの個人資産は約50億ドルにまで達したというからすごすぎる。

 しかし、なんと、その研究はほとんど進んでいなかった。信じ込んでしまうというのは恐ろしいことだ。驚いたことに、シュルツやキッシンジャーという超大物元国務長官までが社外取締役としてホームズのことを絶賛していた。

 内部告発をうけたこの本の著者が調査を開始するが、証言を得るのは困難を極めた。多くがセラノス社からの報復を恐れたからだ。想像を絶するのは、関与する米国の大弁護士事務所のやり口。映画の中だけの出来事かと思っていたが、私の感覚では違法としか思えない。

 どうしてこんな話に騙(だま)される人がたくさんいたのかと思う。しかし偉そうなことは言えない。かつてセラノス社のニュースを読んで、新しいデバイスと生化学を組み合わせたらこんなことができるのか、ホームズって天才とちゃうんかと、私も感心していたのだから。反省……。

 あまりに荒唐無稽な話なので、もし小説なら絶対に読む気などしない。スリリングな内容の面白さだけでなく、そういった意味からも、ノンフィクションの醍醐(だいご)味ここにあり!と太鼓判を押したくなる一冊だ。関美和、桜井祐子訳。

読売新聞
2021年5月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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