気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」 杉山昌広著 KADOKAWA

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気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」

『気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」』

著者
杉山 昌広 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
自然科学/天文・地学
ISBN
9784044006112
発売日
2021/03/26
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

気候を操作する 温暖化対策の危険な「最終手段」 杉山昌広著 KADOKAWA

[レビュアー] 瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

 昨年、菅首相が温室効果ガスの実質排出量2050年ゼロを宣言したことは記憶に新しい。日本でも温暖化問題への意識は徐々に高まりつつある。だが、社会の仕組み全体を変えるほどの壮大な努力を要する排出量大幅削減を達成しても、それだけでは過去の排出量を帳消しにするには不十分だ。こうした考えから、一部の科学者たちは、「人工的に直接的に気候システムに介入すること」を真剣に考えるようになってきた。これが「気候工学」である。

 現在考えられている主な方法は、大気からCO2を直接回収する技術と太陽光を遮って気候を直接冷却する技術である。これらの技術はそれほどハイテクではないし、CO2除去については一部稼働しているものもある。しかし、地球規模でこうした技術を用いて地球温暖化に対処する対策が真剣に構想されていることに、多くの読者は驚くことだろう。

 この構想には様々な副作用が考えられるし、不確実性も大きい。現在の研究の多くは気候モデルを用いたシミュレーションで行われているが、実行に移すためには実験も必要だ。著者は技術的な側面だけでなく、政策実現のために必要な社会の問題にも十分なページを割いて論じている。技術開発をさらに進めるには、利害関係者のコンセンサスが何より重要で、「ガバナンス」体制構築が急務と説くのである。

 世界的には議論はすでに進行中である。だが日本はこの議論の展開に遅れがちだ。自分たちは「環境にやさしい」という誤った自己認識が邪魔をしている可能性もある。今や「環境後進国」であることの自覚が必要なのだ。

 地球の片隅の小さな存在に過ぎなかった人間は、豊かさを技術的に追求する中で環境を大きく変えてしまった。そして現在は、地球全体をさらなる技術で管理しようとしている。思わず、「人間とは何か」という想(おも)いにとらわれてしまうのは評者だけではないだろう。

読売新聞
2021年5月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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