『レッドネック』発売記念、相場英雄さんが語る、「日本が今一番ヤバイ時」とは?

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レッドネック

『レッドネック』

著者
相場 英雄 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413770
発売日
2021/05/14
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

相場英雄の世界

[文] 角川春樹事務所


相場英雄(撮影:三原久明)

都知事選を目前に控えた東京。

水面下ではあまりに危険な極秘プロジェクト 「レッドネック」が始動していた。

「永田町」を騒がす政治エンターテインメントの大ヒット作 『トップリーグ1・2』に続く、衝撃の問題作。

『レッドネック』を上梓された相場英雄さんに その魅力についてお話をうかがいます。

 ***

『トップリーグ』に書いた政治報道の現実とは?

田口幹人(以下、田口) まずは、『トップリーグ』からお話をお聞かせいただきたいと思います。政治記者と週刊誌記者、この二人をなぜ主人公にして書こうと思ったのですか。

相場英雄(以下、相場) 二十年近くマスコミの世界にいて、経済部の記者をしていましたが、政治部の記者が何をやっているのか全く知りませんでした。あの人たちは記事も書かないのに偉そうだな、なんでだろうという素朴な疑問があった。それを謎解きにしたら面白いんじゃないかなと。

週刊誌記者を出したのは、今、ニュースと言えば週刊誌じゃないですか。言い方を変えると、「週刊文春」一人勝ちじゃないですか。なんで「週刊文春」がこんなに勝てるのか、読者にその仕組みを知ってもらうのは面白いんじゃないかな、と。そこが動機ですね。

田口 相場さんが、『トップリーグ』で政治の世界を題材にしようと思ったのはなぜですか。

相場 当時の安倍政権が長くなり、官邸の権限が強くなりすぎてしまった。政治家はかつては派閥の親分を見ていたけども、官邸を見るようになった。同じように、本来公僕のはずの霞が関の官僚たちも、自分の人事が関わってくることもあり、官邸を見て仕事をするようになってしまった。

さらに、マスコミも官邸に遠慮するようになり、読者のために仕事をしていない。三者が、国民や読者を意識しないような現状を国民は絶対に知るべき。僕自身が取材していて、本当にびっくりしました。こんなひどいことになっていたのかと。

田口 政治記者と政治家の関係。書かれているようなものなのですか?

相場 まさに書いた通りです。新聞の政治面には自分の欲しい情報がなくて、週刊誌にはそれらしい解説記事があり、本当のところどうなのだろうと、不思議に思うことが多々あった。『トップリーグ』の取材をするときに、スマホ一本で永田町のことを聞ける関係になった方が何人かできた。そうするとね、俺だけが知っているのだ、という特別な感じになる。これを仕事として政治部の記者がやると、これは勘違いするだろうと思いましたね。記者と政治家の関係性って一定の距離がある、というイメージだと思いますが、いやいや、ずぶずぶですよ。

田口 まさに『トップリーグ』を読んで、これじゃあよくならないよなー、政治家だけが悪いわけじゃないんだね、と思いましたよ。政治に対する違和感というものが、本書の面白さだったと思います。そして、『トップリーグ2』は、ザ・エンタメという作品で、こちらもすごく面白かったです。ちょうど首相の口きき疑惑が話題となっていたタイミングでしたよね。

相場 僕らが知りたい政治家の本当の顔を知ることができるのは、本来記者会見であるはずですが、マスコミがこういう質問をしたいと事前に伝え、それに対して政治家はあくまでも官僚が用意したペーパーを読んで、答える。「いやいやそれじゃあ答えになってないですよ。これを聞きたいんですよ」というのを記者の言葉で更問いといいます。これを官邸の広報室が禁止する。ルールだからと言われても、それに従っている記者もおかしいんですよ、記者なんてやめちまえって話なんですよね。『トップリーグ』の冒頭にも書きましたが、記者は失礼な言い方をして怒らせたりしながらその人の本音を聞き出す。それが有権者のためになる。それを忘れてしまっている。

新作『レッドネック』に込めた日本の政治現状とは


田口幹人(撮影:編集部)

田口 さて、『レッドネック』が発売されましたね。BSE問題をテーマとした『震える牛』を出版した背景には、食産業における食品偽装問題が相次いで詳らかになった出来事がありました。財テクの裏を描いた『不発弾』を出版した後は、東芝の問題が表面化しました。これまで、今の社会にある問題や、近未来に潜む社会の闇を書き続けてきましたよね。今回『レッドネック』では何をテーマに選んだのでしょうか。

相場 普段、皆さんが空気のように使っているSNS、もしくは大手のネット関連企業のサービスです。それらがなぜただで使えるのか。僕も調べる前までは他人事のようにみていたのですが、いや、使い方を気を付けないと悪用されてしまう。

そのいい例が、アメリカの大統領選挙。トランプ大統領誕生の背景に、ネットをある意味洗脳の道具として使用したという事実があり、当事者たちがアメリカ議会で証言をしたりしているわけですよ。

そこで、日本ではどうなんだろう、というのを、選挙のプロと言われている人たちや、ネット関連に詳しい人に取材をしたところ、日本ではまだない、と。それはやらないのですか、やれないのですかというと、まだやらないという答えが正解のようです。ただ、早晩日本でも同じことが起こりえます。トランプみたいな人が出てくる素地があります。

田口 『レッドネック』が出版された今年は、近々では都議選があり、いずれ衆議院議員総選挙もあります。『レッドネック』の舞台は都知事選でしたが、票の仕込みの作業ってもう始まっているんじゃないですかね。それってすごく怖いな、と思う訳ですよね。違う聞き方をさせていただくと、SNSの炎上が一つの要素となっていますよね。かつて『血の雫』を取材されていた時のネットの住人と今のネットの住人は変化がありましたか?

相場 すそ野が広がってしまいましたよね。空気みたいに当たり前なものになっていますね。ネットで、様々なプラットフォーマーが、自分たちを窓口にして様々なサービスに誘導し、入力されたそのデータを管理している。大丈夫じゃないという話、今いっぱい出てきているじゃないですか。それを悪意ある使い方をしたら、まさにトランプみたいな人が出てきてしまう可能性だってある。

田口 閉ざされたネットの中のコミュニティで静かに広がっている見えない繋がりがあって、そこが爆発する怖さ、不気味さってありますよね。

相場 国政選挙の最終日の渋谷駅前で、演説がものすごく盛り上がっている全然無名の候補者の姿を見ることがこれまでありましたが、投票率が上がらずに、結局負けているんですよね。しかし、蓄積したデータを活用し、選挙に行ったことのない人たちを確実に選挙に行かせたとしたら、日本の選挙も操作されてしまう。トランプの当選だけではなく、イギリスのEU離脱だって実際その運用があったと言われています。気軽に検索しているサービスを通じ、そのユーザーがどこに住んでいるか、どんな年収なのか、どんな職業なのか、様々な個人情報はデータ化されている。同じキーワードで検索しても、その人が検索したのと、また別の人がしたのとで別の結果が表示されるって、すごくないですか?

もう、自分の頭の中を誰かに見られながら生きていると思った方がいいですよね。近々、『レッドネック』で書かれているような選挙運動を、誰かやるかもしれません。事前の投票率の予測とかけ離れた投票率の伸びがあった場合は要注意ですよね。

田口 言いましたね。その一言を待っていました。この流れからしたら、どこかの誰かが、そんな動きをしているというネタをつかんでいませんか、相場さん。言えないのは分かりますが、可能な範囲で教えてもらえませんか。

相場 (無言)――今回、コロナの話も書きましたが、書き出した当初は一年くらいでワクチンができて、終息していると思っていたが、そうはならなかった。緊急事態宣言も三回目。皆さん、もう我慢も限界ですよね。今回のこの危機は、ボトムアップなんです。弱い人から厳しい状況に追いやられている。鬱憤が溜まりに溜まっていく。そんな状況の中で、一つキーワードを入れてネットで誘導されたらと思うと、怖いですよね。まさに今一番ヤバイ時だと思います。

田口 そういう空気感を感じますよね。

相場 若者もそうですが、すべてにおいて二極化が進み、下の層に一度身を置くと這い上がれない。少し前までは這い上がろうとする人たちがいたのですが、今はその人たちだけでコミュニティを形成していく状況が進んでいる。

『レッドネック』で書いたことは、まさにターゲットとされている層の皆さんにこそ知ってほしいのです。その層は、特別な層ではなく、まさに我々の層ということなのです。

 ***

【著者紹介】

相場英雄(あいば・ひでお)

1967年新潟県生まれ。89年に時事通信社に入社。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年BSE問題を題材にした『震える牛』が話題となりベストセラーに。13年『血の轍』で第26回山本周五郎賞候補、および第16回大藪春彦賞候補。16年『ガラパゴス』が、17年『不発弾』が山本周五郎賞候補となる。小社刊の『トップリーグ』『トップリーグ2 アフターアワーズ』は2019年、ドラマ化され、話題になった。近著に『アンダークラス』、『Exit』がある。

【聞き手紹介】

田口幹人(たぐち・みきと)

2005年から19年までさわや書店に勤務。店頭から全国的なヒット作を数多く送り出す。現在は、楽天ブックスネットワークに所属。著書に『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』など。

三原久明&編集部

角川春樹事務所 ランティエ
2021年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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