『完全版 シングルモルトスコッチ大全』
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150の蒸留所を網羅 これ一冊でモルトのすべてがわかる
[レビュアー] 香納諒一(作家)
この本の原型である『モルトウィスキー大全』(1995年刊)は、私のモルトの教科書だった。取り上げられた合計113銘柄の中で飲んだものには、目次に順番に丸をつけた。特に印象深かったものについては二重丸を。今、その目次ページを改めて数えてみると、合計78個の丸があった。だいたい7割ぐらいを飲んだことになる。それを仕事にしているわけでも、コレクターや好事家でもないただの酒飲みとしては、なかなかの勤勉さだと我ながら感心する。
土屋さんはその後、2002年に『改訂版モルトウィスキー大全』、09年に『シングルモルトウィスキー大全』を出され、そして今回の『完全版』に至る。この本には、現在スコットランドで稼働する127と閉鎖後もまだ製品が流通する23で、合計150の蒸留所が網羅されている。
モルトは楽しい。蒸留所が置かれた自然環境や製法、そして何よりその蒸留所を運営する人の個性が、様々な特徴を作り出す。同じ蒸留所でも樽ごとに味が異なるし、同じ樽でも上のほうと下のほうでは違う。そういったことを、私はかつて土屋さんの著作から教わり、樽の中身を直接ボトリングしたモルトを味わう楽しみまで知った。
蒸留所自体がまた様々で、閉鎖になってしまう所も数々あれば、長い年月を経て再開される所もある。例えばバンフやリトルミルを、私はまだ飲めるかまだ飲めるかと探しては飲んで来たが、特に後者はここ数年、あまりの高値で手が出なくなってしまった。そんな一方、ポートエレンやブルックラディのように、嬉しい復活を遂げた蒸留所だってある。
このブルックラディを復活させたのが、元ボウモアのブランドアンバサダーで「アイラの伝説の男」と呼ばれるジム・マッキューワン氏だった。ボウモアもブルックラディも、モルトファンの中では極めて有名なアイラ島に蒸留所がある。ところが、このアイラ島では、モルトの原料となる大麦を百年近くもの間、誰も栽培したことがなかった。氏は地道な努力によってその栽培を復活させる。
掲載された全蒸留所について、私たちはこうした魅力的な紹介を読むことができる。そして、もちろん香りと味の特徴についての詳しい紹介もだ。また、前書まではなかった新たな試みとして、百点満点で評価点も書き添えられている。さて、改めて、飲んだモルトに丸をつけていってみよう。今度はいくつつけられるか楽しみだ。