作り込まれた世界観 大人も楽しめる壮大なファンタジー

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  • 神秘の短剣(上)
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作り込まれた世界観 大人も楽しめる壮大なファンタジー

[レビュアー] 石井千湖(書評家)

「ゲーム・オブ・スローンズ」のHBOと「SHERLOCK/シャーロック」のBBCが共同製作でドラマ化した「ダーク・マテリアルズ」。フィリップ・プルマンの原作三部作『黄金の羅針盤』『神秘の短剣』『琥珀の望遠鏡』が、すべて新潮文庫で読めるようになった。「ゲースロ」や「シャーロック」が好きな人にはおすすめしたい。作り込まれた世界観と、先の読めない展開に夢中になってしまうだろう。

 主人公のライラは、オックスフォード大学のジョーダン学寮に住む十一歳の少女だ。第一部の『黄金の羅針盤』の冒頭、ライラは親類で探検家のアスリエル卿の毒殺計画を未然に防ぐ。

 アスリエル卿は別世界へつながる鍵となる「ダスト」という物質を調査するため北の国に向かおうとしていた。一方、各地で子供が失踪する事件が発生。ライラの親友のロジャーも行方不明になる。北の国に何があるのか。子供たちはどこに消えたのか。真実を示す黄金の羅針盤を与えられたライラの冒険が始まる。

 ライラの生まれ育った英国は、現実の英国そっくりだが大きく違うところがある。それは一人ひとりに「ダイモン」と呼ばれる守護精霊がいることだ。ダイモンは動物の形をしていて、その人が思春期になると姿が定まる。人間にとってかけがえのない相棒であり、自分の本質でもあり、死ぬまで離れられない。ライラもパンタライモンというダイモンといつも一緒だ。自分にもいたらいいなと思う、不思議で魅力的な存在である。「ダーク・マテリアルズ」は、ダイモンの秘密をめぐる物語とも言えよう。

 ライラは第二部の『神秘の短剣』でもうひとりの主人公である少年ウィルと出会い、第三部で自らの使命に気づく。もともとは児童文学として発表されたが大人も楽しめるファンタジーになっているのは、無垢な子供が、世界を支配する権威を盲信せず、失敗もしながら自分の頭で考え、人生を選択する話だからだ。ライラがよろいを着たクマの背に乗って走りながら星空を飛ぶ魔女の群れを見るくだりなど名場面も多数。ぜひ文章で体験してほしい。

新潮社 週刊新潮
2021年6月24日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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