必然的な“構成” 麻痺した手足…「新療法」の内容とは

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

廃用身

『廃用身』

著者
久坂部 羊 [著]
出版社
幻冬舎
ISBN
9784344406391

書籍情報:openBD

必然的な“構成” 麻痺した手足…「新療法」の内容とは

[レビュアー] 北上次郎(文芸評論家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「鬱」です

 ***

 医薬品メーカーの営業最前線を描く『MR』を読んで、久坂部羊の面白さを初めて知り(気がつくのが遅くてすみません)、よおし久坂部羊の作品をこれから遡って全部読むぞ(こういうことは私の場合、珍しくない)と、2003年のデビュー作『廃用身』を読んでいるときに、今回のお題をいただいた。おお、ぴったりではないか。というわけで、ここではこの『廃用身』をとりあげる。

 まず、異色の構成であることを最初に書いておきたい。本書の前半は、医師、漆原糾が書いた本、との設定なのである。本書の後半は、その原稿を預かった編集者が「本書にまつわる一連の事件と、関係者のその後について記した」ものだ。ご丁寧に本書の末尾には、その「単行本」の奥付まで付いている。

 珍しい趣向ではないが、本書の場合はそういう体裁であることの必然性がある。前半の医師の手記があまりにセンセーショナルなので、こういう構造を必要としている、ということだ。

 その前に、書名になっている「廃用身」とは何か。本書から引くと、それは介護の現場で使われる医学用語で、脳梗塞などの麻痺で回復の見込みがない手足のこと、と説明されている。漆原糾という医師は、その手足を切断するという新療法を発見するのだ。

 著者はこの鬱症状も改善する「新療法」と周囲の反応を多角的に描いていく。老人医療の現実と問題点がゆっくりと立ち上がってくる。いやあ、すごいなあ。

新潮社 週刊新潮
2021年6月24日早苗月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • このエントリーをはてなブックマークに追加