集英社文庫 ナツイチ2021 『この恋は世界でいちばん美しい雨』宇山佳佑インタビュー 「互いの寿命を奪い合う過酷なラブストーリー」

インタビュー

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この恋は世界でいちばん美しい雨

『この恋は世界でいちばん美しい雨』

著者
宇山 佳佑 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087442571
発売日
2021/06/18
価格
858円(税込)

書籍情報:openBD

集英社文庫 ナツイチ2021 『この恋は世界でいちばん美しい雨』宇山佳佑インタビュー 「互いの寿命を奪い合う過酷なラブストーリー」

[文] タカザワケンジ(書評家、ライター)

幸せとは? 生きる意味とは? 互いの寿命を奪い合う過酷なラブストーリー

『この恋は世界でいちばん美しい雨』イメージイラスト
『この恋は世界でいちばん美しい雨』イメージイラスト イラストレーション= LAL!ROLE

仲睦まじいカップルの雨宮誠(あまみやまこと)と相澤日菜(あいざわひな)。「この幸せがずっと続いてほしい」と願っている二人の関係は、事故に遭ったことがきっかけで一変してしまう。奇跡的に生還した二人を待っていたのは、二十年の余命を奪い合う「ライフシェアリング」という過酷な運命だった――。
宝塚歌劇団での上演も予定されている『今夜、ロマンス劇場で』、TikTokがきっかけで人気に火が付き、Netflixでの映像化が発表された『桜のような僕の恋人』、今年三月に刊行されたばかりの『恋に焦がれたブルー』などで知られる、恋愛小説の名手、宇山佳佑さんのラブロマンス『この恋は世界でいちばん美しい雨』が文庫化されました。
脚本家としてテレビドラマや映画に携わり、小説家としてもヒット作を飛ばす宇山さんに、執筆の裏側を伺いました。


「ライフシェアリング」という枷

―― 『この恋は世界でいちばん美しい雨』の刊行は二〇一八年。最新作の『恋に焦がれたブルー』の一つ前の作品です。まず、この物語が生まれるまでのお話を教えてください。

 実は脚本家としてデビューする以前に、舞台の台本を書いていたことがありまして、そこで書いたお話をベースにして、小説にまとめたのがこの作品です。つまり、人生で一番最初に書いた物語がもとになっているといっていいと思います。

―― 初めて書かれた、ということですが、その時から既に恋愛というテーマがあったんですね。

 そうですね。ラブストーリーであること。それに、寿命を奪い合うという仕組みを枷(かせ)に書こうというのがスタートでした。

―― 本誌(二〇二一年三月号)で、『恋に焦がれたブルー』についてお話を伺った時、恋愛小説では、二人を分かつ宿命のようなものを考えるとおっしゃっていました。『この恋は世界でいちばん美しい雨』は、二十年という限られた時間を奪い合うという非常にシビアな枷です。

「好きな人のためなら死ねる」みたいなことをいう人がたまにいるじゃないですか。僕はその言葉をちょっと怪しいなと思っていたんですよ。自分の命を差し出すなんて、いくらなんでもそれは無理だろう、と。それがそもそものきっかけで、じゃあ、そういう状況になったら恋人同士はどうなるんだろう、と思ったんです。

―― 冒頭からしばらくは、とても幸せなカップルの話が続きます。二十六歳の誠と二十三歳の日菜。ほほえましい仲睦まじさで、この二人がずっとうまくいってくれたらいいなと思うほどです。

「ライフシェアリング」が始まってしまうと、どうしてもつらいほうに行かざるを得ないので、それまでの二人の幸せな関係を明確に描こうとは考えていました。そのほうが二人が引き裂かれていく時に切なくなりますから。とくにヒロインの日菜の苦しみが強いものになるので、ページ数を使ってでも表現をすべきだろうなと思いました。

―― 主人公の一人、誠は駆け出しの建築家。日菜のために“夢の家”をつくりたいという願いを持っています。

 建築家という設定がなかなか思いつかなくて、花火師がいいかなとか、気象予報士を目指している男の子がいいかなとか、紆余曲折あったんです。建築家にしようと思ったのは、彼らは刹那的な人生を生きなくてはならないので、その対比として、ずっと残り続けるものが夢になったほうがいいなと思ったからです。建築という夢が見つかったことで、二人の絆が明確になったと思います。

―― 共通の夢があることで、二人の距離も縮まっていきます。しかも建築は一朝一夕にはできない。限られた時間を生きる二人にとってタイムリミットの過酷さを感じました。では、タイトルにもある「雨」というモチーフはどんなふうに生まれたんでしょうか。

 舞台の台本を書いた時から「雨」はありました。雨って気分的には嫌なものだけど、一方ですごくきれいなものだなとも思っていたんです。ちょっと見え方を変えると、美しかったり、自分の支えになる。だから雨をモチーフにしたのかなと思いますね。

―― 多くの人が恋愛に抱くイメージはきっと晴れの日。でもつきあっていれば雨の日もある。どう見方を変えるか、ということとも関係しますね。また、映画やドラマの中でも雨の名シーンは多いですね。

 映像を思い浮かべて、クライマックスに雨が降っているといいなと。状況を思い浮かべながら書いたという感じですかね。

作家の立場に似ている「案内人」

―― 日菜は感受性が豊かでポジティブにものごとを捉えられる女性。雨をいい意味で受け止められる人物です。

 日菜と誠は相反する性格というか、物の捉え方が正反対の二人にしようと思っていました。

―― 誠はネガティブに捉えがちな性格。平時にはお互いに補い合える、相性のいい二人が、ライフシェアリングを始めてその違いが裏目に出る。ライフシェアリングという「奇跡」の案内人として登場する明智(あけち)と能登(のと)も印象的なキャラクターです。

 映画の『ベルリン・天使の詩』、そのリメイクの『シティ・オブ・エンジェル』の雰囲気が好きなんです。とくに『シティ・オブ・エンジェル』の図書館のシーン。黒い服を着た人間の姿の天使が映像的にすごく好きだったので、案内人をそういう存在として描きたかったんです。羽が生えている天使みたいなファンタジックな存在ではなく。

―― 彼ら案内人の存在が、誠と日菜にも影響してドラマが生まれます。

 彼らは、恋愛や感情の動きを仕事として見なくてはならないので、ちょっと作家に近い立場なのかなと思ったりするんですよね。僕も、私情とは別に、作家として一歩引いた部分から登場人物たちを見ている。恋愛を描く時に、幸せなことだけ描いていても物語にはならないので、つらいことであるとか、紆余曲折を描かなくてはならないんです。登場人物との距離感についてときどき考えるんですけれど、そういうことを案内人に重ねていましたね。肩入れし過ぎるのも間違いだし、かといって距離を取り過ぎてクールに仕事と割り切るのも違う。

―― ライフシェアリングというのが過酷な枷なだけに、彼らのような伴走者がいることが二人にとって救いになります。

 この作品で一番大きい枷というのは、相手の幸せが自分の不幸になるということです。ライフシェアリングは、幸福量が一定を超えると、相手から一年寿命を奪える。その逆に、不幸を感じて幸福量が一定以下に減ると一年寿命が奪われる。好きな人と一緒にいると、相手を幸せにしてあげたいとか喜ばせたいとか思うけれども、ライフシェアリングは、相手を喜ばせたら自分の寿命が短くなってしまう。相手のことを愛しいと思うことが、刃となって返る。恋愛の歓びを奪われるということなんですよね。

―― 「好きな人のためなら死ねる」と思えるのか、ということですよね。

 相手のためなら命を投げ捨てても構わないなんて、そんなものはないと思って書き始めたんですが、書いてみると、選択肢としてはあるんだろうなと思ったんです。彼らのような若者、例えば十代とか二十代前半とか、まだ社会との接点がそこまでない年齢ならば。

―― なるほど。若いということは、持っているものも背負っているものも少ないから、自分と相手との関係だけで考えられる。シンプルですね。

 彼らが持っているものの中で、一番重いもの、一番大切なものがパートナーなんだろうなと。年を重ねていくごとにいろんなものを手にして、背負っていく。恋愛と同じぐらい大事なものや、同じぐらい必要な場所が出てくる。だからこそ相手をまず第一に考え、何をなげうってでも、と思えたりするのは若さの特権だと思うんですね。

幸せとは? 生きる意味とは? 

―― 主人公の二人が住む古民家の持ち主で、磐田(いわた)さんという老夫婦も印象に残ります。将来ああいうご夫妻になれればいいなという理想像のような存在です。

 舞台の時は老夫婦のキャラクターはいなかったんです。主人公たちが刹那的な人生、限られた短い時間を生きなくてはならない中で、その逆の立場にいるカップルを出そうと。長年連れ添って、そう遠くない未来に別れの時を迎えようとしている。人生をともに歩んできた夫婦を間近に見ることで、彼ら自身にある気づきをもたらすきっかけになるだろうなと思って登場させたんです。

―― 私たちは何となく年を取るまで生きているという前提で考えています。ライフシェアリングという設定があることで、限られた時間で何ができるのかを切実に考えることになる。この物語の根底に、生と死ということがすごく大きく横たわっています。

 若い頃を振り返ると、何で自分は生きているんだろうとか、何で自分は生まれたんだろうとか、死んだらどうなるんだろうとか、死んだら誰が悲しむんだろうとか、考えていました。それって若い人がアイデンティティーを確立していく中で誰でも一度は通る道のような気がします。自分って何のために生まれたんだろうと漠然と思いながら、将来の夢とかやりたいこと、生きる意味を探していくと思うんです。
『この恋は世界でいちばん美しい雨』で柱にしたのは、幸せとは何なのかということと、生きる意味とは何なのかということ。この二本の柱で書こうと思いました。
 磐田夫妻のほかにも、「案内人」の明智みたいな三十代、第一線で活躍しいろんな人に影響を与えている建築家の真壁(まかべ)など、いろんな立場の人を出して、それぞれが命と幸せに対してどう思っているのかということは描きたかった。彼らの考え方が主人公二人に作用していくというふうにしたかったんですよね。

―― 誠が憧れる建築家の真壁、日菜が働くカフェの店長の縁(ゆかり)など、登場人物たちがそれぞれちょっと癖があるのが味になっています。こんな人なんじゃないかなってすごくありありと思い浮かぶというか。

 それぞれの登場人物は、基本的に僕の持っている一面というか、僕の何かを植え込んでいると思うんです。僕自身や、僕が出会った人、人生の中で経験してきた何かから引っ張ってきているとは思います。僕自身が癖があるのか、もしくは僕が出会った人がそういう人ばっかりだったのかもしれません(笑)。

―― 建築家については調べたりされたんですか。

 僕の大学時代の親友が建築家なので、取材をさせてもらい、原稿にアドバイスもしてもらいました。真壁のキャラクターをつくるうえでも彼の話が参考になりましたね。建築家は、弁が立つ派手なタイプか、職人肌でちょっと癖が強いタイプに分かれるといわれて、だったら後者のほうがいいなと。

―― 真壁はアトリエ系の建築家らしいこだわりがあって、誠が憧れる気持ちがよくわかりました。

 僕の友達もどちらかというと真壁タイプで、参考にさせてもらった部分もありますね。建築家にはいい意味でこだわりが強い人が多いと思います。

―― 宇山さんの小説の特徴の一つにロケーションがあります。場所の設定が物語の世界にフィットしている。今回は鎌倉ですが、どのように選んだのでしょうか。

 鎌倉は、ちょっとずるい街じゃないですか(笑)。雰囲気はあるし、おしゃれでもあるし。生まれ育った場所が近いこともあって、学生時代に行くことが多かったから土地鑑もありました。書く前に足を運んで、どういう場所がいいかなと考えるので、どうしても行きやすい場所を選ぶ傾向はありますね。好きな街なので、鎌倉をいいなと思ったり、住んでみたいなと思ってもらえたらうれしいですね。

『桜のような僕の恋人』が映像化

―― 最後にお聞きしたいのですが、Netflixで『桜のような僕の恋人』が映像化されます。原作者としてどのように思われているかを教えてください。

『桜のような僕の恋人』の映像化は無理だと思っていたんです。実写で表現するのはかなり難しい題材なんじゃないかと、半ば諦めかけていました。ところが、今回、すばらしいスタッフ、キャストの方々に取り組んでいただくことになり、本当にありがたいと思っています。脚本は僕ではなく別の方ですが、原作を大切にしてくださったことが伝わってきて、僕の中では非の打ち所のない脚本だと思いました。

―― Netflixは全世界に配信されますから、海外からの反響も楽しみですね。

 国によってどういう反応になるのかわかりませんが、『桜のような僕の恋人』は人種や国籍を問わず、どんな人でもあらがえない運命を扱っているので、共感してもらえる部分も大きいと思っています。いまから出来上がりが楽しみです。

宇山佳佑
うやま・けいすけ●脚本家、小説家。
1983年生まれ。神奈川県出身。ドラマ「スイッチガール!!」「主に泣いてます」「信長協奏曲」等の脚本を執筆。著書に『ガールズ・ステップ』『桜のような僕の恋人』『今夜、ロマンス劇場で』『君にささやかな奇蹟を』『恋に焦がれたブルー』等。

聞き手・構成=タカザワケンジ

青春と読書
2021年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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