増島拓哉『トラッシュ』インタビュー 「死にたいクズたちの正義と暴走の果ては」

インタビュー

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トラッシュ

『トラッシュ』

著者
増島 拓哉 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087717563
発売日
2021/06/25
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

増島拓哉『トラッシュ』インタビュー 「死にたいクズたちの正義と暴走の果ては」

[文] タカザワケンジ(書評家、ライター)

死にたいクズたちの正義と暴走

増島拓哉
増島拓哉

ネットで知り合った若者たち六人が集団自殺を企てるが失敗。死から戻ってきた彼らが始めたのは、各人がやってみたいことをやること――だが、それは犯罪だった。
『闇夜の底で踊れ』で第三十一回小説すばる新人賞を受賞した増島拓哉さんの受賞後第一作が刊行された。タイトルは『トラッシュ』。死を恐れぬ“屑(トラツシユ)”たちが覚醒剤の売人を襲い、反同性愛団体にテロを仕掛け、高価なお宝を盗み出そうとし、いじめの加害者たちにその罪を思い知らせようとする。怖いものなしに思えた彼らだが、次第にグループが変質していく。
増島さんの前作『闇夜の底で踊れ』は、執筆当時十九歳とは思えない筆力と、サスペンスとヴァイオレンス、ユーモアにあふれたそのエンターテインメント性が話題を呼んだ。
あれから二年半。満を持して刊行された『トラッシュ』は、自分と同世代の“死にたい若者たち”の正義と暴走をテンポよく描き、日常の屈託を吹き飛ばす快作に仕上がった。本作はどのように書かれたのか。お話をうかがった。

増島拓哉
増島拓哉

犯罪者は僕らの延長線上にいる

―― 『トラッシュ』の主要登場人物たちは二十歳前後。デビュー作の『闇夜の底で踊れ』の主人公は三十代でしたが、今回は増島さんと同世代ですね。

 若者を書いてくれというのは編集者からの依頼だったんです。自分と世代が近いと書きやすいというわけでもなくて、最初にアイディアとして浮かんだのも、『ブレイキング・バッド』という五十歳の男性が主人公のアメリカのドラマでした。余命宣告された教師が、覚醒剤をつくって家族にお金を残そうとして、悪の世界に足を踏み入れていくという話なんですが、すごく面白い。最初の着想はそこからでした。

―― 『ブレイキング・バッド』は化学の教師が専門知識を生かして高品質の覚醒剤をつくるというとんでもない話ですけど、日常と地続きに犯罪があるところ、アイロニーが効いているところが『トラッシュ』と通じますね。第一章は覚醒剤の売人を襲う話から始まりますし。一章ずつ語り手が替わり、各章を短篇としても読めるように書かれています。全体の構想は最初からあったんでしょうか。

 グループが辿る大まかな結末だけは、最初から考えていました。でも、そこに至るまでの具体的な道筋は、「小説すばる」に約一年半連載していたこともあって、書きながら徐々に考えていきました。一章ずつのプロットは考えましたが、それも最終的にそこからは離れていった感じになっています。

―― 主要な登場人物は男性五人に女性一人。キャラクター設定はどのように考えたのでしょうか。

 第一章の浅野は、みうらじゅんさん原作の『アイデン&ティティ』という映画の主人公のセリフがヒントになりました。ロックバンドの話ですが、主人公が、「不幸なことに、不幸なことがなかったんだ」と言ってアイデンティティの希薄さを嘆く場面があって、なるほどなと思ったんです。

―― 六人は自殺志願者として出会いますが、浅野には自殺に向かうようなトラウマがない。「死ぬ気で好き勝手楽しく生きようや」と犯罪についても目的意識がありません。しかしゲイの川原のために、五人は反同性愛団体にテロを仕掛けます。差別やヘイトスピーチなどの社会問題がからんできます。

 政治的な主張があって書いたわけではないんですが、同性婚は認めたほうがいいんじゃないかなとか、「同性婚を認めたら日本が壊れる」なんて有り得ない、という思いはありますね。

―― 彼らは犯罪グループですが、普通の若者たちのようにバーベキューをやったりもする。

 こいつらはサークル気分で犯罪をやっているんやろなと思ったので、そういう場面を入れてみました。何人もの人が殺された事件の容疑者をニュースで見たのですが、警察に連行されるとき、両手で顔を覆って、やってもうた、みたいな感じに見えたんですよ。犯罪者ってカメラの前でふてぶてしかったり、にやにやしているイメージだったんですけど、ほんまに普通の人みたいなリアクションやな、と。罪を犯す人は自分たちとまったく別の存在というわけじゃなくて、僕らの延長線上にいるのかなと思ったので日常の描写を入れたという理由もあります。

正義の自警団にはしたくなかった

―― 第三章のタイトルは「劇終」。物語半ばで終わり? と思ったのですが、この章を読み終わると納得しました。

 理由は単純で、ブルース・リーとか、ジャッキー・チェンの香港映画が好きなので、最後に「劇終」とエンドタイトルが出るのをやりたかったんです(笑)。

―― 太い明朝体で「劇終」(笑)。第三章の主人公、林田は無類の映画好きなんですよね。しかも犯罪によって映画の登場人物になったような快感を得ていて、次々に映画のタイトルが引き合いに出されます。

 林田の性格だと、めちゃくちゃ有名な映画や、王道のハリウッド映画はベタ過ぎるかなと思ったので、ちょっと古い映画を出したりしてます。たとえば『デリンジャー』という銀行強盗の映画とか。

―― 一九七〇年代の映画ですね。ジョン・ミリアスの監督デビュー作。林田が最初に提案するのも銀行強盗です。

 僕自身が中学生の頃に映画を見て、銀行強盗をしてみたいなって思っていたんです。ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの『ヒート』とか、バットマン・シリーズの『ダークナイト』の冒頭のシーンとか。銀行強盗って面白そうやなと。

―― 危険な中学生ですね(笑)。

 倫理観と常識に負けてやらなかったんですけど(笑)。もしも倫理も常識もなく、映画に影響されるような痛々しさを持ったまま二十歳近くまで成長したら、林田みたいなことをしていたかも、と思いました。

―― 結局、林田は造幣博物館から天正菱大判(てんしようひしおおばん)を盗み出すことを計画するんですが、この大判は実在するお宝なんですね。

 もともと編集者から、大阪を舞台にしてくださいと言われていたので、せっかく大阪にするならただの銀行強盗やったら面白くない。大阪ならではの財宝はないかなと調べて、見つけたのが天正菱大判でした。実際に見に行きましたけど、ピカピカしてましたね。ちょっとおもちゃみたいでしたけど。

―― 第三章の「劇終」はグループに変化をもたらします。第四章は唯一の女性メンバーの佐藤が高校時代のいじめの加害者たちの目の前で焼身自殺をするはずが、思わぬ展開に。そして第五章ではグループの活動が政治性を帯びるようになっていく。三島由紀夫の割腹自殺事件や連合赤軍事件など、六〇年~七〇年代に起きた政治的な事件を連想しました。

 連合赤軍は念頭にありましたね。政治的というより、仲間をリンチにかけたりすることが怖いなと。もともと第一章を書いた時点で、このグループが正義の自警団みたいになるのは面白くないよねという話を編集者としていたんです。こいつらが悪を罰していくことで爽快感を得るような物語にはしたくないなと。そこで考えたのが、グループが自警団のほうに傾いていったときに一人だけ興味がない人間がいたら面白くなるんじゃないかということ。もう一つ、昨今の正義を気取る人たちを見ていて、僕自身がいけ好かないと感じる部分があるので、そういった部分を凝縮した人物を入れようと思いました。

―― 彼らは「匿名希望」として犯行声明を出すようになりますが、その中で一人だけ賛同しないメンバーがいます。その人物の「バットマンを気取りたいならマントでもはためかせたらどうや」というセリフがかっこいい。

 六人の中で一番、感情移入して書いたのはそのセリフを言った人物ですね。でも、それ以外の五人にも、感情移入というか、自分の思っていることを少しずつ入れてはいます。さっき言った、同性愛差別はどうなのか、といった感じで。メンバーのうち、南だけはあまり感情移入しませんでしたが、彼がどうなるかはあらかじめ決めていたので、ある意味、一番悩まずに楽しく書けたかもしれません。

―― 後半の章で視点人物になる南は暴力装置のような人間。犯罪グループやテロ集団に必ずいるタイプですよね。理屈はともかく「やったるぜ」という。当然、彼が視点人物の章は壮絶な展開になります。そして最終章。物語の結末は明かせませんが、デビュー作に引き続き鮮やかな幕切れでした。

 雑誌連載の時点では、過去を振り返る場面があって長かったんです。単行本にするにあたって、スパッとカットしました。ああいうラストになったのは、『トラッシュ』というタイトルにも思い入れがあったので、それにふさわしい内容にしたかったという理由もあります。あとは、黒川博行さんの『桃源』という小説の最後が「腰をおろした。」という一行で終わるんですよ。主語もないシンプルな一文でかっこいいなと思って。自分でもやってみたくて、短い一文で終わりにしました。

面白い九十分の映画を見たような読後に

―― 『トラッシュ』は、一度は死に向かっていった若者たちが、生に戻ったときに犯罪を生きるよすがにする物語です。生と死というテーマが根底にあると思うのですが、増島さん個人は死についてどうお考えですか。

 中学三年生ぐらいから大学一年生ぐらいまで、ずっと死にたいなとぼんやり考えていたんです。それこそ浅野みたいに、とくに理由はないけど死にたいな、ぐらいの気持ちをずっと抱いていました。でも、だんだんと死にたいなという気持ちはなくなっていきました。だから、『トラッシュ』を書いていて、死にたい人たちに肩入れし過ぎずに書けたと思います。

―― 死にたいという気持ちに理由があったわけではないし、誰かに話すようなことでもなかったんですよね、きっと。

 そうですね。いじめられてとか、失恋してとか、理由があれば人に相談できたんですけれど、そういうわけではなくて。生きるのはもうええかな、というくらいの漠然とした気持ちやったんで、誰かに言ったところで仕方がないなって思っていましたね。十代ってちょっとしたことで死にたくなるものだと思うんですよ。多分、僕もそうやったと思うんです。

―― 第一章で浅野が、集団自殺へ向かう時間を振り返り、「あの甘くやわらかな闇の匂いを、忘れることはないだろう」と独白していますね。若い読者ほど、この小説を読んで死ぬことと生きることについて考えるんじゃないかと思います。

 読者の死生観を変えたいとまで思って書いたわけではないんです。『トラッシュ』を読んで死にたい気持ちがなくなりました、と言われたら、ありがとうございます、とは思いますけど。

―― あくまでエンターテインメントだと。

 出張に行くサラリーマンが新大阪で買って東京で読み終えて、面白かったなと思ってくれればいい。それくらいの気持ちです。心に残ってほしいとか、これを読んで考え方が変わったとかはなくていいかなと。本当に面白い九十分の映画を見たな、ぐらいの気持ちで楽しんでいただければと思います。

―― 増島さんはこの春に大学を卒業して就職されたそうですね。二足のわらじということになりますが、三作目は二作目ほど待たずに読めるでしょうか。

 副業規定を確認して入社したので執筆は続けられます(笑)。第三作はなるべく早くお届けできるようにしたいと思います。

増島拓哉
ますじま・たくや●作家。
1999年大阪府生まれ。『闇夜の底で踊れ』で第31回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。

聞き手・構成=タカザワケンジ/撮影=祐實知明

青春と読書
2021年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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