大航海時代の冒険者――『木乃伊の都』著者新刊エッセイ 金澤マリコ

エッセイ

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木乃伊の都 = city of mummies

『木乃伊の都 = city of mummies』

著者
金澤, マリコ
出版社
光文社
ISBN
9784334914080
価格
2,090円(税込)

書籍情報:openBD

大航海時代の冒険者――『木乃伊の都』著者新刊エッセイ 金澤マリコ

[レビュアー] 金澤マリコ(作家)

十年ほど前、とある歴史シミュレーションゲームにのめり込んだことがあった。

 主人公の船乗りが、金を工面して船を仕立て、水夫を雇い、交易品を仕入れ、大海に乗りだすところからゲームが始まる。

 時は十六世紀、大航海時代。不完全な海図しかなく、羅針盤やアストロラーベやクロススタッフを頼りに一攫千金を夢みて世界に漕ぎ出す命知らずの冒険者。航海の途中では嵐にも遭うし海賊にも襲われるし敵の船団と戦闘にもなる。「〇〇では今、毛織物が高値で取り引きされています」などの情報も次々と入ってくる。面白すぎて、暇さえあればゲーム機を握っていた。

 何がそれほど面白かったかといえば、時代背景が実に丁寧に描かれていたからだと思う。交易ルート、船舶の装備、戦闘技術、さまざまな交易品とその相場……時代の雰囲気がリアルに感じられた。

 残念ながら私のゲーム熱は、親指が腱鞘炎になったことで強制終了せざるを得なくなった。戦闘シーンで親指を酷使したせいだ。ゲームをきわめるには若さと体力が必要だと痛感した。

 思えば小学生の頃から、ある種の歴史上の人物や地名に妙に反応し、その言葉に接するだけでワクワクする人間だった。最初は小学校五年生のときの「アウグストゥス」。彼のことを調べまくり、初代ローマ皇帝といえども私生活では悩み多き人間だったのだと知った。高校生の時には「バビロン」「空中庭園」「パルミラ」に嵌(は)まった。森有正(もりありまさ)氏の『バビロンの流れのほとりにて』に、なんて美しいタイトルなのだろうと感激した。

 もちろん、「大航海時代」も私のキーワードの一つだ。この時代の物語を書くことができて幸運だと思っている。願わくは、そのワクワクの一端でも読者の方々に伝わりますように。

光文社 小説宝石
2021年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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