歴史を解読し、紡がれる原日本人の壮大な物語

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アースダイバー 神社編

『アースダイバー 神社編』

著者
中沢 新一 [著、写真]
出版社
講談社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784065217757
発売日
2021/04/22
価格
2,420円(税込)

書籍情報:openBD

歴史を解読し、紡がれる原日本人の壮大な物語

[レビュアー] 角幡唯介(探検家・ノンフィクション作家)

 この本は思考の力で精神の始原を探求してきた中沢人類学のひとつの総決算ではないだろうか。本書をめくりながら、私は地図をもたずに日高山脈を登ったときのことを思い出していた。地図がないということは、この先に山があるのかも不明、という極端な状態のなかで登るということである。そこに突然見事な姿の山があらわれると、人はその威容に愕然とし、目の前の山に存在ごと組みこまれる。それは未来を予期し、情報を得たうえで確認する山とは全然ちがう、裸の山だ。はじめて日本列島に到達した原始の人が富士山を見たときの経験に、これは近いのではないかと思った。

 聖地の由来を象徴から読み解くこの本によれば、舟で列島にたどりついた縄文人は、各地の円錐形の山を神奈備として祀り、麓に住んだという。彼らの心性では大地の奥にひそむ不可視の力はときに雷や蛇となり立ちあがる。その現場が山であり、こうした創造の物語は彼らの故郷である南方の神話にも語られている。そしてそれがわかるのは、諏訪、出雲、大神など列島各地に今も残る神社の古層に縄文の世界観が埋めこまれているからだという。

 神社には縄文古層、弥生中層、歴史時代以降の新層が折り重なる。表向きは新層しか見えないが、神話、古文書、祭祀の対象となる遺物などを慎重に分析することで見えない古層が露出するというのである。

 古層を解読し、紡がれてゆく原日本人の壮大な物語はじつにスリリングだ。まるで縄文弥生の原始の人々の蠢きが、自然との関わりから生みだされる思考が、見えてくるようである。でもそれだけではないはずだ、とも思える。こうした古層は何も土地や神社だけでなく、われわれ一人一人が山や自然に触れた折の何気ない感受の仕方にも秘められていて、その各々の古層と土地の古層は確実に共鳴しているだろうからだ。日高で見た裸の山のように。

新潮社 週刊新潮
2021年7月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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