『オリンピア』
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古代オリンピックの実像に迫った貴重な一冊
[レビュアー] 野崎歓(仏文学者・東京大学教授)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「五輪」です
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『オリンピア』は、古代ギリシア・ローマ史研究の碩学、村川堅太郎が、1964年の東京オリンピック開催に合わせて執筆した本である。古代のオリンピックがどのような大会だったかを語って、今でも新鮮な驚きを与えてくれる一冊だ。
クイズ番組の材料に使えそうな情報がふんだんに盛り込まれている。現在のオリンピックと最も異なる点は何か? 答えは、競技が全裸で行われていたこと。文字通りの素っ裸だったのか、「下帯」をつけていたのかは諸説ありだ。確かなのは裸体に油を塗っていたことで、「オリーヴ油でテカテカの体の若者たちが炎天の下に競技したのだ」。
女性の競技出場は許されなかった。既婚婦人には観戦も認められず、未婚女性のみが入場できたというのは不思議な気がするが、「男の全裸体を娘が眺めることの教育上の可否などをすぐ考えるのは、儒仏やキリスト教的先入観を受けているわれわれの見方である」。
競技は個人競技のみ。荒っぽい格闘技「パンクラティオン」が熱狂を呼んだ。必勝祈願や祝勝会には神々に捧げる供犠がつきもので「オリンピック精神は、何千何万の家畜の屍と、蠅がわんわんするなかで育まれた」。異教の祭典としての性格が生々しく伝わってくる。
何世紀も続くうち、施設は立派になっていったが選手は「プロフェッショナル化」し、「根本の精神の喪失」は覆うべくもなかったという。近代オリンピックは、一世紀ちょっとで同様の危機に直面しているのだ。