<東北の本棚>人々の幸せ 金稼ぎ追求

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ぜにざむらい

『ぜにざむらい』

著者
吉川永青 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022517425
発売日
2021/02/05
価格
2,145円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>人々の幸せ 金稼ぎ追求

[レビュアー] 河北新報

 誰よりも銭を愛し、その価値を知り尽くした実在の武士、岡左内。戦国から江戸時代にかけ、無一文の孤児から一万石の猪苗代城城代まで成り上がった痛快な半生が描かれる。金銭に執着する裏には、人々の幸せを追求してやまない岡の本心があった。
 織田信長の越前国(福井県)攻略により孤児となったところから、物語は始まる。「ずるい者どもに潰(つぶ)されぬだけの力を付けて、誰にも見捨てられぬ武士になれば良い」。7歳だった岡を背中におぶり、逃避行を手助けした家臣の言葉はその後、岡の人生の指針となる。
 山で狩りをしながら、敦賀の商人・高嶋屋久次の知己を得て命をつなぎ、18歳の時に近江国日野(滋賀県)で蒲生氏郷(後に会津城主)に仕官する。獣と格闘する生活で培った勘を発揮して、戦で手柄を挙げていく岡。「俺は力のある武士になる。それにはまず銭」と周囲のさげすみも受け流し、禄(ろく)を求める。
 印象的な場面がある。蓄えた銭から低金利で金貸しを始めた岡は、天正大地震(1586年)の際、町衆に貸した金の返済を7分目までで良しとした。生活再建に懸命な人々を前に「金の力で金のない者を押しつぶしてはならぬ」と、思ったからだ。そのときの町衆が、軍紀に反して氏郷から勘当された岡を救う。「岡に恩がある。勘当を解いてほしい」と氏郷に懇願するのだ。岡は「取り立てをあきらめて、助かった皆が喜び、報いようとしてくれた。この満ち足りた思いは、手放した金が生んだもの」と悟る。幸せは金で買えると、実感した瞬間だった。
 金は幸せの礎。そう言い切るぜにざむらいに、すがすがしさを覚える。
 著者は1968年東京都生まれ。2010年「戯史三國志 我が糸は誰を操る」で小説現代長編新人賞奨励賞。(郁)
   ◇
 朝日新聞出版03(5541)8832=2145円。

河北新報
2021年6月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク