「日本の山や自然っていいなぁ」イモトアヤコが再発見 超人気「山ごはん漫画」が描く、特別な達成感

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『山と食欲と私』公式 鮎美ちゃんとはじめる山登り―気軽に登れる全国名山27選ガイド―

『『山と食欲と私』公式 鮎美ちゃんとはじめる山登り―気軽に登れる全国名山27選ガイド―』

著者
日々野鮎美 [著]/信濃川日出雄 [イラスト・漫画]
出版社
新潮社
ISBN
9784103539919
発売日
2021/06/28
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

『山と食欲と私』と私

[レビュアー] イモトアヤコ

イモトアヤコ・評「『山と食欲と私』と私」


イモトアヤコさん

『山と食欲と私』(以下『山食』)は、後輩に薦められて読み始めたらめちゃくちゃハマって、新刊が出るのを楽しみにしている漫画の一つです。

 主人公の日々野鮎美ちゃんが、私が出演している番組を観ている場面には驚きましたが(笑)、私の登山は趣味というより「仕事」なので、「登りたいから登る」27歳の女性を客観的に見られることは、単純に面白いし、色々な発見があったりもします。フィクションなのに不思議とエッセイ漫画を読んでいるような気持ちになったりもして、絵はもちろん、エピソードや心情の書き込みが丁寧で細かいからかなと感じています。

 何より、この漫画の最大の魅力は山ごはん! 鮎美ちゃんが山や自宅で作るごはんはどれも美味しそうで、影響されやすい私は、彼女が愛用するガスバーナーとメスティンの飯盒をすぐに買い、炊きたてご飯に天かすをのせぽん酢をかける「ぽんかす丼」や秋鮭とにんにくネギ味噌を使った「即席さけ雑炊」を作ったりしましたが、いつも絶対に漫画を超えられないんです。作りたての料理を目の前にしても絵の方が素敵に見える。見た目も含めて、なんか違うんだよなぁ。いつか鮎美ちゃんを超えてみたいですね。

 そんな『山食』から生まれた本書は、主に登山ビギナーに向けたガイドブックですが、慣れてきたら挑戦できる泊まりがけのルートもいくつか入っています。類書と大きく違う点は、鮎美ちゃんが自らオススメの山を紹介し、山にまつわるあれこれを解説してくれるところ。なので、カラーのイラストや漫画のコマも多数収録されていて、『山食』ファンの私としては、パラパラとめくるだけでテンションがあがっちゃいました。しかも、描き下ろしの特別漫画まで掲載されているから、その充実度にびっくりです。

 プライベートでは登らないので、私の場合、登山はいつもスタッフさんやガイドさんと一緒です。鮎美ちゃんのような単独登山の経験ももちろんなくて、自分ではまだ「登山ペーペー」という意識なんですね。だから、登山ルートや交通アクセス、それぞれの山の注意点や見どころを、鮎美ちゃんが実際に登った上で丁寧に教えてくれることに安心感を覚えましたし、自分が登ったらどうかなと想像しながら読む楽しさもありました。写真を眺めていると、改めて日本の山や自然っていいなぁとも思いました。海外の荒々しい山とは違い、京都のお庭のように「楽しみ方」がぎゅっと凝縮されているというか……。登山道が整備されているので夏なら小学生でも達成感を味わえる山がたくさんあるのも、日本ならではじゃないかな。

 紹介されている27山の中では、特に雲取山に興味が湧きました。高い山が好きというわけではないのですが、2000メートルを超える東京で一番高い山ですし、名前の字面や音の響きも良いなと思って。「スカイツリーより何倍も高いところで」の夜景はとても綺麗なんだろうなぁ。

 それこそ『山食』がきっかけで興味をもち、泊まりがけでキャンプをしたこともあるのですが、今は状況的になかなか難しいので、たまに車で湖に出かけたりしています。珈琲好きなので、湖のほとりで「究極の一杯を飲む」ことをテーマに、ナルゲンボトルで湧き水をくみ、バーナーで沸かしたお湯で淹れた一杯は最高だ!なんて遊びもしています。火を見ながらお湯が沸くのを見ているだけでワクワク感が高まり、より美味しく感じるから不思議です。

 本では山の紹介以外にも、道具や装備、マナーやトラブルへの対処法などが漫画のコマと写真を使って解説されているのも、「登山ペーペー」の私には心強く感じました。使われているコマには、例えば歩幅は小さく、急坂はジグザグにといった技術的なことから、山小屋の利用法やテント泊の流れなど実用的なものもあって、『山食』の漫画自体がそもそも優秀な登山ガイドでもあったんだ!と、新たな発見もありました。

 道具や装備って機能はもちろんですが、最終的に自分の性格や体形に合うかどうかも重要だから、鮎美ちゃんなりのこだわりが改めてまとまっていて、参考になります。

 山のウェアはオシャレなデザインのものも多くて、私もキャンプ場で見かける素敵なコーディネートを真似したりします。でも、やっぱり“ホンモノ”は違うんですよー。山を愛し、山に登ることが仕事であり生きがいである「山男」たちは、最低限の機能さえあれば見た目にはこだわらない人が多いんです。つぎはぎしたダウンは、自分に本当に合うものを知っているからなんだと、逆に格好良く見えてきて……。私は到底その境地にはたどり着けそうもないから、潔さすら感じます。

 辛いし疲れるし怪我をする可能性もあるけれど、自分の足で頂上に辿り着いたときの達成感は、特別なものがあります。それに鮎美ちゃんにとっての登山のように、人生や心を豊かにする存在、ワクワクできる何かって本当に大切。ごはん、景色、ファッション、写真、下山後の温泉……様々な楽しみ方があるのも山ならではで、不安定な状況が続く時こそ、ルールを守って新しいことを始めてみるのもいいかもしれません。私もこの本を片手に、いつか雲取山に登ってみたいです。

新潮社 波
2021年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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