孤独な青年の屈折を見事に好演した市川雷蔵

レビュー

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金閣寺

『金閣寺』

著者
三島 由紀夫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101050454
発売日
2020/10/28
価格
737円(税込)

書籍情報:openBD

孤独な青年の屈折を見事に好演した市川雷蔵

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 三島由紀夫『金閣寺』が雑誌「新潮」に連載されたのは1956年、金閣寺放火事件から6年後のこと。連載開始の1年前に、私たちが見知っている金色に輝く金閣寺が再建されている。

 主人公である吃音の孤独な青年が初めて金閣寺を訪れたのは中学時代。美しさを期待していたのに「それは古い黒ずんだ小っぽけな三階建てにすぎなかった」。彼は失望するが、しばらくすると心の中で金閣は美しく蘇る。金閣寺の修行僧となってから、その美はますます揺るぎないものとなり、彼の心を支配していく。

 三島文学の最高傑作とも言われる『金閣寺』の映画化は2回。58年の市川崑監督『炎上』と76年の高林陽一監督『金閣寺』である。

 4、5歳で『炎上』を観た時、主人公を演じた市川雷蔵の悲しそうな目が幼心にもキュンときて、自分まで悲しくなったのを覚えている。そして、驟閣寺(映画では金閣寺の名を使っていない)が炎上して火の粉が夜空に舞うシーンは、大人になっても鮮明に思い出せるほど印象的だった。

 小説を再読し、続けて『炎上』を60年以上経て再視聴。観念的でいて精緻・華麗な三島文学の世界を見事に映像化していることに感嘆。吃音の劣等感や伝えられず理解されない焦躁感・絶望などの屈折した感情を抱いている孤独な青年を、表情のごくわずかな変化だけで演じた市川雷蔵の演技は見事としか言いようがない。モノクロ映像の計算されつくした美しさや黛敏郎の現代音楽も主人公の内面を代弁するかのような緊張感があって素晴らしい。ラストで主人公が自殺するなど原作と違う所もあるが、その魂は何も損なわれていない。三島自身も映画に満足したという。

 高林監督の『金閣寺』、大学時代に観た時の感想は「下品で退屈」。再視聴は何かの罰かと思うほどの耐え難い時間だった。主人公の吃音はそれとは気づかない程度で、無口どころか結構饒舌。吃音ゆえの心の闇を持つ三島の描く青年僧とは別人だ。三島の圧倒的な美意識に挑んだが、意欲が空回りした残念な作品。斬新と評価する人もいるが、私はNO。ここまで言ったら、批判殺到で炎上かな。

新潮社 週刊新潮
2021年7月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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