『教養脳 自分を鍛える最強の10冊』
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古典で身に付ける他者を理解する能力
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
書名に「教養」の文字が入った本は沢山ある。その多くが「古典」を読むことを勧めるが、理由はビジネス的な実利だったりする。しかし、福田和也『教養脳自分を鍛える最強の10冊』は違う。著者によれば、教養とは「自分を自分として形成すること」だ。そして「自分とはまったく違う時代、文明のなかにいる他者を理解する能力」を育てるのが古典だと言う。
本書に登場するのは『万葉集』からハイデガー『存在と時間』までの10冊だ。
キリスト教世界を軸に「信仰による魂の救済」を描いたダンテの『神曲』。「巧言令色」ではなく、きちんと言葉を使い風儀正しく行動することが「仁」であり、それを最高の道徳として説いた『論語』などが並ぶ。
またスタンダールの『赤と黒』では、著者は主人公ジュリアン・ソレルの「偽善」に注目する。作者は近代における幸福や恋愛が、いかに困難なものであるかを明らかにしていると。
そして、ヘミングウェイ『移動祝祭日』の比喩力を高く評価し、「この作品に漲っている幸福感、充実感、これこそが文学の魅力の、最も分かりやすい、顕かな姿」だと断言する。心身ともに苦しかった晩年、若き日に体験した単純な生活を取り戻そうとした文豪の闘争心の産物だった。
もちろん10冊全部を読破しなくてもいい。たとえば小林秀雄『本居宣長』を1年かけて熟読してみるのも悪くない。どの本でも、立ち現れる「人間の本性」は時代を超えたものだ。