週間小池都知事くらいがちょうどいい? 劣等感とプライド渦巻く東京都庁

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ハダカの東京都庁

『ハダカの東京都庁』

著者
澤 章 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163913841
発売日
2021/06/10
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小池都知事くらいがちょうどいい? 劣等感とプライド渦巻く東京都庁

[レビュアー] 舛添要一(国際政治学者)

 マスコミによって連日報じられている国会と異なり、首都については、都知事の言動に関する情報は豊富だが、官僚機構や議会の実情は、ほとんど知られていない。そこで、都庁元幹部によるこの解説本は役に立つ。

 しかし、これは都庁の役人の立場から書かれた解説であり、都知事を経験した私の立場からは、全く異なる都庁の姿が浮かび上がってくる。

 私は、国会議員、閣僚を経験した後に都知事に就任したが、仕事を始めて暫くすると、「とんでもない所に来たものだ」と愕然とした。国政の場に長く身を置いてきたことからくる偏見でもあろうが、霞が関と新宿との歴然たる差に失望したのである。

 まずは官僚機構。国家公務員試験のほうが難しいので、最初からIQの差が出るのは仕方ないが、国家官僚に対する度しがたい劣等感を感じる。給与や天下り先など国より潤沢であるだけに、プライドが先行する。

 さらに言えば、知事の昼食の中身まで週刊誌にペラペラと喋るような職員は、評判の悪い厚労省にすら一人もいなかった。

 私は、菅官房長官(当時)と相談して、国の優秀な官僚を都庁に出向させ、ショック療法で改革を図ったが、これが都庁官僚が知事追い出しに動いた理由である。政策で知事と論争する能力と意欲に欠ける役人集団では、東京の明日はない。

 議会もそうである。国会は予算委員会に典型的なように、政府と国会議員とが丁々発止のやり取りをする。私は、同じ覚悟で都議会に臨んだが、予定調和的な議論ばかりで、事前に役人が用意した答弁書以上のことを答えると、閉会時間が遅くなると苦情が出る。知事の不祥事追及のときだけ元気になる冬眠状態の都議会の活性化がなければ、政策論議は深まらない。

 都庁記者クラブも問題だ。かつては、都庁担当は記者の登竜門だったが、今は不勉強な若者の集団である。定例記者会見で税制など政策の説明をしても、理解できる頭がないのか、質問はまずない。霞が関では、役人が大臣に見せないような情報を夜討ち朝駆けで拙宅まで持ってくる記者は多数いた。私が都知事時代に同じことをした都庁記者は皆無である。ある大手新聞の幹部が「馬鹿の集まりですから仕方ありません」と私に語ったことをよく覚えている。マスコミもまた、都政の機能不全を増幅している。

 著者が「七つの大罪」を指摘する小池都知事という「悪人」こそが、今の都庁には最も相応しいのかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2021年7月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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