『ヒトコブラクダ層ぜっと(上)』
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『ヒトコブラクダ層ぜっと(下)』
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予測不能のストーリー展開 超巨大なホラ話に思わず感動
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
万城目学4年ぶりの長編となる本書は、過去最長、上下巻合計930ページの冒険小説巨編。足かけ5年にわたる雑誌連載を経て、ついに単行本化された。その名も、「ヒトコブラクダ層ぜっと」。なんのことやら全然わかりませんが(ようやく意味がわかるのは下巻に入ってから)、カバーを見ると、どうやら砂漠が出てくるらしい。それに、たぶんコメディっぽい要素はあるだろうな……と思いながら読みはじめると、たしかにその予想は外れないものの、作中で起こる出来事は予測不能。ストーリーテリングの達人に好き放題に振りまわされる快感が味わえる。
2022年11月に幕を開けるこの物語の主人公は、それぞれ特殊能力を持つ26歳(登場時)の三つ子、榎土兄弟。長男の梵天は壁の向こうや土の中が3秒間だけ見通せる。次男の梵地は相手がしゃべるどんな外国語でも完璧に理解できる。三男の梵人は3秒先が見える。3人は、幼い頃、自宅に隕石が落下して両親を失い、たがいに助け合って生きてきたが、長兄の長年の夢(恐竜の化石の発掘)を叶えるべく、力を合わせてある非合法ミッションを敢行。それがすべての始まりだった……。
ライオンを連れた謎の女が三つ子の前にとつぜん現れ、そのたびに3人の運命が急転するので、おいおいおいそんなのありかよ――とつぶやく間もなく話はどんどん飛躍する。キーワードは、ティラノサウルス、自衛隊のイラク派遣、メソポタミア神話……。
どう見ても行き当たりばったりでデタラメな話に見えるが、実はその背後で周到な伏線が張りめぐらされ、きっちり理屈が通っている点が本書の一番の特徴かも。この物語にまさかそんな決着が待っているとは!という驚きとともに、恐竜化石の謎やシュメール文明滅亡の謎まで解けてしまう。半村良と諸星大二郎が合作したみたいな超巨大スケールのホラ話に思わず感動しました。