『シェフたちのコロナ禍 : 道なき道をゆく三十四人の記録』
- 著者
- 井川, 直子, 1967-
- 出版社
- 文藝春秋
- ISBN
- 9784163913681
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:openBD
コロナ禍の中で飲食店主は何を考えどう行動したのか
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
行動をいちいち「不要不急」かどうか考える日々が、こんなに続くとは思わなかった。コロナ禍で、飲食店はいつの間にか悪者扱い。営業するだけで非難されたりするのに、補償は雀の涙。気の毒すぎる。とはいえ自分も外食は……気が引けたり。
緊急事態宣言下、飲食店主の声を拾って歩いたインタビュー集。フレンチ、イタリアン、居酒屋……さまざまな業態の三十四人が取った対応はそれぞれ。全面休業した店もあれば、通常営業を貫いた人も。〈何が正解なのかわからない〉と記されているが、読んでいると、全員が正解ですよ、と声をかけたくなる。
結論は対照的でも気持ちは似ていたりする。〈動かないように、会わないようにと息を潜めるような毎日で、元気を失くしている人たちをなんとか応援したい〉と持ち帰りなど可能な営業を模索。〈もしお客さんやスタッフがこの店で感染して、亡くなってしまったら?〉と懸念してクローズ。いずれも自分にできることを考え抜いての行動なのだ。
顧客や従業員のことだけでなく、生産者について語る人も多い。発注を止めるのは心苦しい、と。店主たちが思いめぐらすのは、料理や経営のことばかりではない。むしろ、店を通じてつながる相手についての言葉が印象深い。著者が伝えたいのも飲食業の社会的意味なのだろう。
だから重苦しい内容でも、どこか明るさがある。〈道なき道をゆく〉苦闘さえ、仕事を見直すいい機会になった、と言い切る人たちはカッコいい。食文化を支える人々の矜持と熱量を知って、自分もちょっと頑張らなくちゃな、と思えてくる。
〈不要不急でも、うるおいをもたらすもの、がありますよね。人が生きるためにはむしろそっちのほうが必要で、それがあるからこそ、この苛烈な社会でも生きていける〉
ワクチンでコロナ禍が落ち着いたら、久々に食べ歩きをしてみたい。不要不急だからこそ。