もやし炒めも本づくりも同じ素材を活かす真髄とは

レビュー

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料理の意味とその手立て

『料理の意味とその手立て』

著者
ウー・ウェン [著]
出版社
タブレ
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784910402000
発売日
2020/12/10
価格
2,530円(税込)

書籍情報:openBD

もやし炒めも本づくりも同じ素材を活かす真髄とは

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 強烈なシズル感のあるレシピ動画が次々に公開され話題を集めている昨今。書店を覗いてみても料理関連の書籍のほとんどは色とりどりの写真をメインに据えた装幀になっている。そんな中、異彩を放っている一冊がウー・ウェン著『料理の意味とその手立て』。昨年12月の発売からこつこつと売れ続け、現在3刷8000部。ネットのレビュー欄に書き込まれた読者からの評価も非常に高い。

 タイトルと著者名のみのシンプルなデザインの表紙に加え、評判を呼ぶ一因となっているのが、帯に書かれた一文の存在感。曰く、〈もやし炒めはごちそうです。〉――実際、本書では「もやし炒め」なる料理の解説に実に5ページもの分量が割かれる(!)。といっても、小難しい用語は一切なし。素材の扱い方、すなわち切り方や調理方法をめぐる考え方のヒントが、「もやし炒め」一品から鮮やかに浮かび上がる仕組みになっている。レシピ本というより料理の秘伝書と呼びたくなるような本なのだ。

「本文に登場する料理に関しては長島有里枝さんに素晴らしい写真を撮っていただきましたが、すべて目次の前に配置することで“読み物”としての性格を際立たせました」(担当編集者)

 例えば、塩を〈アイライン〉に喩えたり、「炒める」という作業を〈“加熱したボウル”で〉素材と調味料を和えるだけ、と表現したり。日本だと油は〈調理のための媒介〉といったイメージだが、中国では〈うま味を出すための大事な素材〉と捉えるというくだりでは深く頷いてしまった。どの解説も感覚に即しつつ、理に適った言葉で綴られているから、手順が自然と頭に沁みこむ。「おかげさまで男性の読者も非常に多いようなんです。お店をやっている知人から、顧客の70代の男性が全部つくってみたってと聞いたときには感動しました」(同)

 実は帯にはちょっとした仕掛けがある。通常、表に記されるはずの版元名が見当たらないのだ。「〈もやし炒め~〉の文言のインパクトを最大限に活かすためのデザイナーの判断です。読者にとって大事なのは版元名じゃなくて中身ですから」(同)

 素材を活かす。本づくりの真髄もそこにある。

新潮社 週刊新潮
2021年7月15日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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