仁義なき戦いVS.リアルヤクザ 驚くべき取材力から生み出されたノンフィクション2冊

レビュー

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仁義なき戦い 菅原文太伝

『仁義なき戦い 菅原文太伝』

著者
松田 美智子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103064527
発売日
2021/06/24
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

喰うか喰われるか 私の山口組体験

『喰うか喰われるか 私の山口組体験』

著者
溝口 敦 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065221044
発売日
2021/05/17
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

[本の森・ノンフィクション]『仁義なき戦い 菅原文太伝』松田美智子/『喰うか喰われるか 私の山口組体験』溝口敦

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 菅原文太さんには一度だけお会いしたことがある。北方謙三氏原作の映画に出演されたおりの現場だった。俳優さんは意外とおしゃべりな人が多い。高倉健さんや藤竜也さんなど、冗談ばかり言うので驚いたが、菅原さんは正直、怖かった。

 松田美智子『仁義なき戦い 菅原文太伝』(新潮社)には俳優・菅原文太が貫き通した美学が描かれている。代表作といえば『仁義なき戦い』シリーズだが、それ以前はスター街道驀進、というわけではない。

 もともとは容姿を見出されてモデルとなり、口では「成り行きでなった」という俳優だが、実はあちこちの映画会社のニューフェイス試験を受けたことを告白している。

 ようやく新東宝にスカウトされ役者となったが芽が出ない。そこに現れた生涯の恩人が「安藤昇」だ。インテリヤクザとして名を馳せていた安藤がカタギになるときに舞い込んだ仕事が、映像化される自叙伝の主役だった。菅原文太は脇の重要な役に付いた。これがヒットしシリーズ化された。

 菅原文太には運があり、節目ごとに有力な後ろ盾が付いた。若山富三郎、映画監督の鈴木則文、深作欣二、プロデューサーの俊藤浩滋。彼らの庇護のもとヒット作に恵まれ、トップの座に上り詰めていくのだ。

 だが息子の不慮の死によって、晩年は俳優業から距離を置く。選挙の応援演説に出た姿に違和感を持った人も多かっただろう。だがそこにも一貫して揺るがない彼の信念があった。彼の頑固さをここまで明らかにした取材力に、拍手をおくりたい。

 菅原文太の評伝の帯には「役者は、食うか食われるか、一人だ」とある。しかし暴力団に相対したノンフィクション作家は、まさに『喰うか喰われるか 私の山口組体験』(講談社)を赤裸々に記録していた。

 溝口敦といえばヤクザ取材の第一人者である。新卒で入社した出版社で一年目から山口組の取材を手掛けた。なんとほぼ五十年になる。ちょうど三代目組長田岡一雄が心臓病で入院していた頃だ。記者として取材したものをまとめたのが、デビュー作『血と抗争 山口組三代目』である。

 その後も山口組に密着、一和会との「山一抗争」、五代目・渡辺芳則の襲名、宅見組組長宅見勝に反発した組員の暗殺事件、弘道会・司忍の六代目襲名など、山口組が離合集散する事件を間近で見てきた。自身が刺された事件も客観的に書いていく。

 映画『仁義なき戦い』の感想も容赦ない。菅原文太が演じた広能昌三のモデルの美能幸三にも広島戦争の取材をしているが、腰が定まらず粘着質で、話が一発で決まらない人、と語っている。

 暴対法によって暴力団の人数は年々減っており、世の中に対する影響力も低下した。だが昭和に生まれた人には、まだヤクザにロマンを感じる者も多いようだ。「そんな団体があったのか」と言われる時代までもうすぐかもしれないが、歴史の証言者として溝口敦の本は読んでいきたい。

新潮社 小説新潮
2021年8月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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