『数学独習法』
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「文系だから」と逃げられない時代
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
有利なのは理系か文系かという不毛な二元論が続くこの国では、長い文系優位の末、ここにきて理系の追い上げが激しい。背景として挙がる話が、不景気なら理系とか文系バブルの崩壊とか、大雑把なのもまた泣けるけれど、いま世の中が急変激変しつつあって、その原動力がテクノロジーであることは間違いない。
それゆえ、理系の価値が高まることは納得できる一方、困りごとも出てきて、それは、これまで大量生産されてきた文系は、テックの時代をどう生きるか。AIだDXだ5GだCOVIDだ、個別のテーマから齧るのはその場しのぎの対症療法で、理系のわからなさを元から絶つにはやっぱり、基礎の基礎たる数学に立ち返るのが一番です。
で、数ある数学再訪の書の中から冨島佑允の『数学独習法』をお薦めする最大の理由は、著者が元メガバンク勤務の数理専門家だから。使えるとありがたい(あるいは、多少なりともわかってないと困る)分野に話を絞れるのはプロの数学ユーザーだからだし、文系の腑に落ちにくいポイントを的確に把握できているのは、文系天下のニッポンの大銀行で理系の筋を通すのに苦労した賜物では?
数学なんか学んで何の役に立つのかという文系永遠の疑問も、一次方程式や三角関数から統計、微分積分までが実世界で役に立ちまくる具体例の数々に氷解。正直な話、「はじめに」と「あとがき」、それに第1章を読むだけでも、文系頭にかかる霧は相当晴れるかと。