犯行をのっけから明らかに!? “すべてが、反転。”のミステリー

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

invert 城塚翡翠倒叙集

『invert 城塚翡翠倒叙集』

著者
相沢 沙呼 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065237328
発売日
2021/07/07
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

犯行をのっけから明らかに!? “すべてが、反転。”のミステリー

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 二〇一九-二〇年のミステリーランキング五冠を獲得した『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の続篇。「すべてが、伏線。」と謳われた前作は、驚愕の結末が待ち受けていた。それを受けての続篇刊行は至難の業と思われたが、著者はネタバレありとことわったうえで、本書から読んでも楽しめるよう工夫を凝らした。

 今回の惹句は「すべてが、反転。」。表題はひっくり返す、逆転させるという意味で、本書は犯行をのっけから明かす、いわゆる倒叙ミステリーの作品集に仕上がっているのだ。

 冒頭の「雲上の晴れ間」はIT企業のエンジニア狛木が長年自分を搾取してきた幼馴染で社長の吉田を殺害する。彼は鉄壁のアリバイを用意していたが、数日後マンションの隣室に美女が引っ越してくる。女は城塚と名乗った。彼女は事件を知るや直ちに狛木の犯行を疑るが、物証がなく、何とか手がかりを得ようとする。読みどころはもちろん二人の間の息詰まるような心理戦だ。

 それは続く「泡沫の審判」も同様で、こちらは小学校教諭の末崎絵里が盗撮犯の元校務員を深夜の学校で殺し、転落死に偽装する。だが数日後、学校に新任のスクールカウンセラー登場。白井奈々子こと城塚翡翠だった。たまたま事件のことを知った城塚はすぐに末崎の犯行を見抜くが、やはり物証なし。彼女は末崎に張り付き、証拠をつかもうとする。

 作品を追うごとに犯人は手ごわくなる。最終話「信用ならない目撃者」の犯人・雲野泰典は元警視庁刑事にして探偵会社社長。彼は自分を告発しようとした部下を射殺するが、それを向かいのマンションの住人に目撃されていた!? 捜査の細部まで心得た雲野は城塚の探偵仕事も熟知しており、その裏をかこうとする。

 やがて恋愛関係に陥る雲野と事件の目撃者。その二人にねちねちと迫る城塚翡翠。各話の終わりでは古畑任三郎調の小芝居まで披露するし、今回も驚愕仕掛け多々あり。

新潮社 週刊新潮
2021年7月29日風待月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク