世界は嘘で満ちている『革命キッズ』著者新刊エッセイ 中路啓太

エッセイ

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革命キッズ

『革命キッズ』

著者
中路啓太 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914134
発売日
2021/07/28
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

世界は嘘で満ちている 中路啓太

[レビュアー] 中路啓太(作家)

 世界は嘘(うそ)で満ちている。

 体制側や権力が、みずからに都合のよい嘘をしばしばつくのはもちろんだが、反体制や反権力を標榜(ひようぼう)する側だって嘘をつく。また、専門家や権威とされる人々の言葉がすべて正しいとも思えない。そもそも、彼らのあいだにも意見の対立や論争があるし、新たな研究成果や、政治体制の変化などによって、それまでの権威が否定されたことは、歴史上、枚挙に暇(いとま)がないのだから。

 そうなると、「誰かの言うことが正しいか否(いな)かを、どう見極めればよいのか?」という問いが湧きあがる。しかし、その問い自体は重要であるものの、それに勝るとも劣らず重要な問いがあると思われるのだ。それは、「嘘だらけの世界にあって、どうやって正気を保って生きていけばよいのか?」という問いである。「正しさ」とか「真相」などというものは、物体同士の衝突や摩擦によって生じる火花のごとく、嘘と嘘とがぶつかり合う中で、時折ちらりと姿をあらわす体(てい)のものかもしれず、そのようなものばかりを追い求めていると、死にたくなるほどくたびれてしまいかねないと思うからだ。

 拙作『革命キッズ』は、嘘で塗り固められたさまざまな「大義」の狭間(はざま)にあって、なんとか自分の生を確立しようともがく人々の物語であると言える。デモ隊が大挙して国会議事堂を取り巻いた、過去の実際の事件をヒントにしてはいるが、殺し屋や、国際的謀略機関のエージェントなどが暗躍する、まったく荒唐無稽なフィクションだから、それをリラックスして楽しんでいただければ、著者としては幸いである。

 けれども、何が正しいかよりも、嘘だらけの世界でいかに生きるかに焦点を当てたこのフィクション(嘘)は、荒唐無稽ながらも、他の嘘にぶつけることで、ひょっとすると仄(ほの)かながらも「真相」の火花を放つかもしれない。そのようにも、著者は思っている。

光文社 小説宝石
2021年8・9月合併号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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