『能面検事の奮迅』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
シリーズ怖い 中山七里
[レビュアー] 中山七里(小説家)
前作『能面検事』は担当編集者および編集長の強烈なリクエストによって誕生した。
「シリーズになるような作品をお願いします」
同業諸氏ならお分かりいただけるだろうが、当初よりシリーズが前提となっているライトノベルならいざ知らず、一般文芸やミステリーでシリーズ化を目論(もくろ)むには最初に高いハードルが自(おの)ずと設定される。僕の場合は「四六判で重版がかかる」ことだった。現在の出版事情をご存じの方なら、このハードルがどれほど高いかは説明するまでもないだろう。
ええ、考えに考えましたよ、あたしは。キャラクターを立たせ、最初の五ページさえ読んでもらえたらほぼ一気読みできるストーリーを捻(ひね)り出し、何とか最低限のハードルを越えることができましたとも。
で、二作目の『能面検事の奮迅』なんですけどね。このシリーズ、ある事情があって舞台を関西にしたんですよ。そうなると、どうしたって例のモリカケ問題を想起する読者さんがいらっしゃる訳で、それから逃げたんじゃエンタメ小説家の名が廃(すた)るってもんだい、べらぼうめ。
もちろん実際の事件をなぞり、ただ政府批判官僚批判をするだけじゃ芸がない。大体、その手の批判やら追及は他の真っ当な作家さんやジャーナリストさんたちが熱心にやっていて、今更ワタクシごとき半可通が口を差し挟む隙もなく。そこはそれ、楽しませてなんぼ、胸に残してなんぼの世界。匙(さじ)加減は難しいんだが、汚い話を美しく書くのも物書きの仕事。汚職で始まる物語、読了後に清々(すがすが)しい気分になりますれば拍手喝采。
ところでこんなキャラクターの検事を登場させちまったもんだから、担当編集者さんや読者さんから「あの悪徳弁護士と法廷で対決させろ」とリクエストされてちょいと困った。いったいどちらの版元さんで書けばいいのやら。