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海外でも注目を集めている著者の掌篇作品集

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 松田青子作品は、古い価値観や先入観に対する違和感を提示して気づきを与えてくれる点が特徴だが、それも単に怒りをぶつけるのでなく、ユーモアたっぷりの発想力を炸裂させた小説世界を堪能させてくれるところが大きな魅力だ。

 文庫化された『女が死ぬ』はじつに53篇もの掌篇をおさめた作品集。

 表題作は、フィクション内で話の転換やカタルシスのために安易に女が死んだり、妊娠したり、レイプされたりする描写が多い現実をテンポのよい文章で告発しつつ、とびきり皮肉の効いた展開でニヤリとさせる。他にも、「007」シリーズの歴代のボンドガールたちが一堂に会して不満をぶつけあう「ボンド」、よく耳にする“女性ならではの感性”という表現を揶揄する「男性ならではの感性」など、パンチの効いた作品が並ぶ。

 松田は現在、海外でも注目度を高めている。作品集『おばちゃんたちのいるところ』(中公文庫)は今年、英訳作品が米国のレイ・ブラッドベリ賞の候補になった後、ファイアークラッカー賞を受賞、そして現在、世界幻想文学大賞の候補となっている。これは数々の古典を現代的な価値観に置き換えて語り直したもの。たとえば落語の怪談「牡丹灯籠」が、リストラされて家で暇をもてあます男のもとに、訪問販売の女性二人組が訪ねてくる、という話に。彼女たちが売ろうとするのは灯籠で―と、噴き出してしまうアレンジだ。原典が知られているわけではないであろう海外で高く評価されているのは、やはり彼女の筆力とメッセージ性の高さによるものだろう。

 ちなみに『女が死ぬ』も表題作の英訳が19年にシャーリイ・ジャクスン賞の短篇部門にノミネートされた。ジャクスンといえば不穏な空気漂う作品で人気を誇る作家。有名なのはやはり『くじ』(深町眞理子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)の表題作だろう。住民が三百人ほどの小さな村でその日開催されたのは、毎年恒例のくじ引きイベント。のどかなお祭りの光景と思わせて、結末に心底ぎょっとする。人間の暴力性と残酷性への皮肉がこもった一作。

新潮社 週刊新潮
2021年8月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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