<東北の本棚>情報分類の本質に迫る

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拡張するキュレーション 価値を生み出す技術

『拡張するキュレーション 価値を生み出す技術』

著者
暮沢 剛巳 [著]
出版社
集英社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784087211504
発売日
2021/01/15
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>情報分類の本質に迫る

[レビュアー] 河北新報

 美術館や博物館の学芸員を意味するキュレーター。現代アートの企画展に携わる専門職のイメージが強いが、美術の世界に限った言葉ではないという。本書はキュレーションの本質に迫り、高度情報化社会を創造的に生き抜く現代人に向けた考察だ。
 著者はキュレーションの持つ二つの意味に着目する。一つは企画立案や会場計画、展示といった展覧会企画に関わる業務の総称。もう一つは「インターネット上の情報を集め、整理して新しい価値を与えること」というIT用語だ。知的生産の基礎となる情報を集め、分類するという両者の共通点から、著者はキュレーションを「価値を生み出す生き方」と拡張して定義付ける。
 本書は「価値」「地域」「事故」「食」など七つのテーマごとに、キュレーションの実践を読み解く。陶磁、染織など幅広い工芸品を有する日本民芸館(東京)の創設者である思想家柳宗悦を紹介。かつて無価値とみなされていた民芸品を、柳が自らの審美眼で選び出し、分類したことで「民芸」というジャンルが確立され、独自の価値を獲得したと著者は意義を強調する。
 戦争や災害といった悲劇に観光資源としての価値を見いだす「ダークツーリズム」もキュレーションの一例だという。考えさせられるのが、思想家東浩紀らが提唱する「福島第一原発観光地化計画」だ。著者は原発事故の記憶を後世に伝え、被災地に経済的利益をもたらすという点で、計画に検討の価値があると評する。
 会員制交流サイト(SNS)の普及で、誰もが情報を発信できる時代となった。数々のキュレーションの事例は、発信の新しい切り口を示唆してくれる。
 著者は弘前市出身で東京工科大デザイン学部教授を務める。(江)

 集英社03(3230)6080=968円。

河北新報
2021年8月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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