近世蝦夷地の地域情報 日本北方地図史再考 米家志乃布著 法政大学出版局

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近世蝦夷地の地域情報

『近世蝦夷地の地域情報』

著者
米家 志乃布 [著]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
歴史・地理/地理
ISBN
9784588382017
発売日
2021/05/25
価格
3,190円(税込)

書籍情報:openBD

近世蝦夷地の地域情報 日本北方地図史再考 米家志乃布著 法政大学出版局

[レビュアー] 佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)

「国土」化の過程 読み取る

 歴史地理学者による、蝦夷(えぞ)地から北海道になる過程の日本北方地図史の研究成果。先行研究をふまえ、幕末から明治にかけての北方地図の展開から、地域情報の把握により「異域」が「国土」の一部となっていく歴史的経緯に光をあてる。

 松前藩に支配が任された蝦夷地の地図は、日本では近世初期から島の一部を描くにとどまった一方、欧州やロシアの東北アジア進出にともない作られた日本列島北方地図は、探検にもとづく測量図が次第に詳しくなっていった。

 ロシアの南下に対応して幕府が蝦夷地を直轄した時期の19世紀初めと半ばに、幕府による地図・絵図作成が進展した。海岸部を測量した1821年完成の伊能忠敬の地図や、松浦武四郎が踏査をもとに内陸まで描いた1859年の地図などが成果である。また測量地図・沿岸図とは別に絵図・風景画が多く描かれ、当地の地域認識の進展に影響を与えた。

 著者は、戦前からの開拓中心の「拓殖史観」とは距離を置いて、内国植民地支配の道具として地図をとらえる。そして、幕府が得た蝦夷地支配のための地域情報により形成された蝦夷地像から、和人による「蝦夷地の植民地化」の過程に地図を位置づける。近世蝦夷地の「異域」が、和人が収集・把握した地域情報を通して日本の「国土」化し北海道となっていく姿を、史資料の着実な分析から読み取る。

 松浦武四郎が調査で雇ったアイヌの人々の地域認識を記録していることや、明治になって開拓使による植民都市札幌の風景画や写真に歴史情報が如実に記録されていることの指摘は、新鮮である。

 また、幕府役人、蝦夷地警備を命じられた東北諸藩、経済活動を展開した北前船商人・出稼ぎ漁民、さらに地元アイヌの人々等の視点に留意する点、地図だけでなく描かれた絵図・風景画や写真からも豊かな地域情報を読み取る点には、研究の独創性を感じる。そして、地図・絵図に示された地域情報を通して、国家や人々の「国土」認識までもつかむ研究方法は、興味深い。

読売新聞
2021年7月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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