毛沢東論 真理は天から降ってくる 中兼和津次著 名古屋大学出版会

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毛沢東論

『毛沢東論』

著者
中兼 和津次 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784815810238
発売日
2021/05/07
価格
3,960円(税込)

書籍情報:openBD

毛沢東論 真理は天から降ってくる 中兼和津次著 名古屋大学出版会

[レビュアー] 国分良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

階級闘争の闇を批判

 本書は、毛沢東に関する過去の研究業績や評論等を再吟味し、それに新たな史料を加えつつ毛の思想と行動を客観的に分析し、鋭く批判した渾身(こんしん)の力作である。

 著者は日本の中国経済研究の今日的基礎を築いた経済学者である。評者もその研究から多くを学んできたが、経済ではなく毛や中国政治についての私論をこれほど痛快に開陳するのは初めてだ。背景には、毛に倣おうとする現在の習近平体制に対する強い危機感があるようだ。

 著者は、毛のマルクス主義の真髄(しんずい)は階級闘争にあるという。それは革命後の新国家建設の時代に入っても続き、社会主義社会に到達しても人間の意識の中のブルジョア傾向の撲滅を叫び続けた。階級なきはずの社会主義社会の階級闘争である「継続革命」がそれだ。

 1950年代、知識人に自由発言を呼びかけ、大量の党批判が出ると処罰を始めた反右派闘争、精神主義に陥り数千万に及ぶ餓死者を出した大躍進と無謀な人民公社、それを批判した彭徳懐への逆襲、そして60年代、劉少奇ら指導部を標的にした権力闘争により数限りない犠牲者と社会的混乱をもたらした文化大革命等々。毛時代の「非正常死」の数はいぜん闇の中だ。

 著者によれば、人類は時間をかけて市場、法、民主主義という3つの制度を創造してきた。しかし毛はこれらを無視あるいは破壊して、あたかも「真理は天から降ってくる」ように、権力主義、エリート主義、実用主義の統治原理を植え付けた。毛の言う「大衆路線」とは大衆に主体性はなく、党の政策の手段でしかなかった。

 この7月1日に中国共産党は創立100年を迎える。そのうちの41年が毛時代だ。革命の成功を過信し、そのまま建国以後も継続革命に走り、膨大な数の犠牲者を生んだ。習近平体制もその悪(あ)しき伝統から抜け出せていないことが、本書から理解できる。むしろ中国の指導者にこそ読んでもらいたい内容だ。

読売新聞
2021年6月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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