扉はひらく いくたびも ―時代の証言者  竹宮惠子、知野恵子(聞き手)著 中央公論新社

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扉はひらく いくたびも

『扉はひらく いくたびも』

著者
竹宮 惠子 [著]/知野 恵子 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784120054129
発売日
2021/03/23
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

扉はひらく いくたびも ―時代の証言者  竹宮惠子、知野恵子(聞き手)著 中央公論新社

[レビュアー] 栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

「マンガ革命」の記録

 19世紀のフランスの寄宿学校を舞台に少年同士の愛を描いた『風と木の詩(うた)』、特殊な能力を持つ新人類が人との共存を目指して戦うSF『地球(テラ)へ…』、昭和初期の満州でたくましく生きた女達(たち)の物語『紅(くれなゐ)にほふ』……。

 竹宮惠子のマンガには愛や喜びと釣り合うだけの憎しみや悪が描かれ、弱い者達は反逆心を隠している。同性愛、差別、管理社会と個人の自由などのテーマを扱った作品群は甘美なだけではない。読者に挑み、肩を揺さぶり、立ち位置を問うパワーを保ち続けている。

 本書はマンガを描き、教えてきた彼女が半世紀の出来事を語る自伝。1970年、徳島から東京へ出て、腕を磨きはじめる。練馬・大泉の「おんぼろ長屋」に住みながら、同世代の描き手達と交流したことが刺激になった。

 マンガ家としては職人肌で、十代の頃に触れた本や映画が少ないのを自覚していた竹宮は、独自のスタイルを見つけるまでに年月を要した。『風と木の詩』と『地球へ…』は苦しいスランプの末につかんだ大成功だった。

 マンガ制作の第一線で30年間活躍した後、竹宮は2000年、日本初のマンガ学科を創設した京都精華大学の教授に就任する。はじめての「就職」で大学へ飛びこみ、同僚達と試行錯誤を重ねながら、ストーリーマンガの教授法を練り上げていった。竹宮が中心になって考案した緻密(ちみつ)な複製画「原画ダッシュ」はマンガ史の研究に新たな道を開いた。また、マンガが「オープンソース(公開情報)」であることを再確認することにより、「皆がまねし、何かを付け加えていく」文化が育つという発言は胸に応える。

 そもそも、全共闘世代に生まれた彼女は「マンガで革命を起こせばいい」と思い定めて、大学を中退した。固定観念の扉を次々に「こじ開けて」きた竹宮は、「マンガを描くのが、一番辛(つら)くない、一番楽しめる」と述懐する。天職に生きてきた人の、愛にあふれた一言だ。

読売新聞
2021年6月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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