ぐるり 高橋久美子著 筑摩書房
[レビュアー] 南沢奈央(女優)
世界繋がる 本音の物語
ウソのない小説だと思った。作詞家としても活躍されている著者ということもあり、フレーズとして頭に残るような独特の描写や比喩が使われている。かと言って、そこまで表現に固執していない印象も受ける。良い意味で自然体であり、どこかで起きているかもしれない日常の瞬間を見事に描き出している。文章のすき間、もしくは内側に中身がぎっしり詰まっているのが感じられる。これぞ本心から生まれてきた小説だ。
著者初の小説集である本作は、「私達は特別でない日々が重なってできた、奇跡の今日を歩いている」ことを感じられる短編19編が収録されている。それぞれに登場する人物を見ていると、いつの間にか身の回りの誰かを思い浮かべている。
「私の狂想曲」に登場する二児の母である翠は、自分に似ていて、少し胸がチクチクした。高校時代の友達二人とリモート飲み会で対面して、変わらない友達たちの自由奔放さに、「何でもかんでもきっちりしすぎだから息苦しいのだ」とはたと自分を顧みる。二人への羨望が、高校時代に重なる。さらに、友達にも家族にも明かさないような、大切に持ち続けている時間がある翠の一面は、自分の奥底に触れられたような感覚になった。
先の友達二人は「柿泥棒」に、「美しい人」では翠の夫が主人公として描かれている。一人一人が人生を歩みながらも、ときどき出会ってすれ違っていく。作品をまたいで人物が登場することで、人生や時間が交差して世界ができているということに気付かされる。そして、今日という一日が立体的に見えてくる。
短編集ではあるが、一冊でちゃんと『ぐるり』という作品になっている。清々(すがすが)しく、ほっとするような読後感に包まれているのは、世界がぐるりと繋(つな)がっているということを、ウソのない物語で見せてもらえたからかもしれない。