室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界 清水克行著 

レビュー

5
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室町は今日もハードボイルド

『室町は今日もハードボイルド』

著者
清水 克行 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103541615
発売日
2021/06/17
価格
1,540円(税込)

書籍情報:openBD

室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界 清水克行著 

[レビュアー] 内澤旬子(文筆家・イラストレーター)

◆濃くて熱い自力救済社会

 日本史と銘打たれる読み物の大多数が時代を動かし偉業をなし遂げた宰相や武将、宗教家などの権力者をとりあげている。

 強烈な個性のスーパースターたちが、家族と家名と領民のため(?)に領土拡大したりしなかったり。史実を退屈せずに知るには良いが、夢中になれたことはない。

 本書はそんな典型的な歴史読み物とは一味も二味も違う。登場人物は日本中世の農民や職人、地方の荘園主など無名な人々。いや、名前はある。歴史教科書には書かれないレベルの知名度なだけ。彼らが起こした事件記録を中世史研究者である著者が丁寧に掘り起こし読み解き、中世の価値観や暮らしの規範を紹介していく。

 これが驚くことばかり。寺院が年貢を横領した武士を本気で呪う、不倫された妻は新しい女の家を叩(たた)き壊す。納得できないことには切腹をもって主張を通す。年貢米を量る枡(ます)が大きいと、百姓が代官にケチをつけて容積を小さくさせたり、窃盗がとんでもない重罪になってしまったり、犯人がわからないときは容疑者に熱湯に手を漬けさせて火傷(やけど)の具合で判定するなどなど。

 どいつもこいつも怒るときには熱く濃く徹底的に暴れ報復する自力救済社会。それが中世。なんとも強烈なご先祖様たちではないか。

 礼儀と和と年長者を尊んできたと保守派政治家たちが標榜(ひょうぼう)する古き良き日本像が木端微塵(みじん)に砕け散る。

 しかしこれらの規範を読めば読むほど考えさせられる。現代の感覚ではありえないと思う一方で、心の奥底で共感しかける自分を発見してしまうからだ。

 我々は歴史の途上ですべての人命と生活は尊厳をもって等しく扱われるべきだと思い至り、社会システムを改変してきた。けれどもやっぱり目標に至らず、今もどうにもならない割り切れなさを多くの人が抱えている。その割り切れない気持ち自体は、中世人とあまり変わりがないのではないか。著者には是非日本版『中世の秋』(ホイジンガの名作)を書いていただきたい。

(新潮社・1540円)

1971年生まれ。明治大教授。専門は日本中世史。著著『耳鼻削ぎの日本史』など。

◆もう1冊

高野秀行、清水克行著『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(集英社文庫)

中日新聞 東京新聞
2021年8月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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